【座談会】「看護師、向いてない」と悩み続けた私たちは、なぜ今も現場にいるのか?

公開:2026.05.11

「看護師、向いていないかも」
そう思ったことのある人は、きっと少なくないはずです。

先輩に言われた一言、実習での失敗、同期と自分を比べてしまう日々。
悩んだ末に現場を離れる選択肢もあれば、一方で「自分は向いていない」と感じながらも、5年、10年、20年と現場に立ち続けている看護師たちもいます。

今回集まってくれた3人も、かつては「戦力外通告」を受けたり、駐車場で『名探偵コナン』を観てからじゃないと帰宅できなかったり、それぞれの場所で「向いてない」に直面してきた看護師たち。
当時は本気でどん底だったという経験を、今どう振り返り、どう自分なりの折り合いをつけてきたのか。「向いていない」という自覚を持ちながら、それでも現場に立ち続けてきた3人の、リアルな本音を聞きました。

(聞き手:白石弓夏)

座談会参加者

せんさん(看護師歴20年)
地方の総合病院で消化器・呼吸器科、透析室、循環器病棟などを経て15年勤務。専門看護師の資格取得のため大学院へ。36歳で上京し、3次救急病院を経て現在の訪問看護へ。趣味はおうちBAR。自宅でシェイカーを振るほどのお酒好き。

れなさん(看護師歴7年目)
産科・婦人科から精神科病棟(急性期・慢性期)、精神科特化の訪問看護ステーションへ。コロナ禍を機に個人事業主として開業し、看護師ライターとしても活動中。現在は精神科クリニックでも勤務。海外旅行と推し活が生きがいで、年1回以上の海外旅行を自ら死守している。

だいこんさん(看護師歴15年目)
准看護師として慢性期病院に入職するも半年で退職。結婚を機に地方へ移住後、有料老人ホーム・健診センター・保育園・老健を経て、40歳後半で正看護師を取得。来月からグループ病院へ異動予定。趣味は雪中キャンプ。最近始めたランニングにもどハマり中。

自分の能力を疑い、出口が見えなかった。
私たちの「暗黒の新人時代」

――看護師として働いて初めて「向いていないかも」と感じたとき、あるいは誰かに言われたときのエピソードを聞かせていただけますか? 

せんさん せんさん
実は、向いていないって言われ始めたのは看護学校に入った頃からで。興味のあることしか勉強できないし、マルチタスクが本当に苦手で。最初の基礎Ⅰの実習で、学年100人のうち3人落ちたんですけど、そのうちのひとりが僕でした(笑)。それに、当時はまだ男性看護師への偏見が残っていた時代で、患者さんに拒否されることもあって……。

それは就職してからも続くんですよ。ナースコールが鳴っても全く耳に入らない。優先順位がつけられなくて、急変しそうな患者さんがいるのに、別の患者さんのトイレ介助をゆっくりやっていたりとか。「あなたには任せられない」って言われながら、休日勤務も夜勤もさせてもらえないまま1年が過ぎていきました。

しかも、学生の頃は患者さんとの会話が一問一答の「事情聴取」みたいになっていたのが、就職してからはだんだん楽しくなってきたと思ったら、今度は世間話を延々やってしまって……「あなたがやっているのは看護じゃない」って言われていましたね。

――それはショックですね……!その頃、看護師に向いていないのは自分のせいだと思っていたんですか?

せんさん せんさん
もうただただ、自分の能力のなさだけしか考えてなかったですね。建設的に指導してもらっているはずなのに、へこむだけで改善策も見えなくて。同期の2人はスケジュール通りにどんどん進んでいくし、あんなにできるのに、自分だけ任せてもらえない……そんな日々でした。

――れなさんはどうでしたか?

れなさん れなさん
最初の病棟が、胎児に疾患のある母親だけが入院する特殊な産科で。患者さんが月に一人来るかどうかくらいで、そもそも経験を積める場がなかったんです。なのに、いざ患者さんが来ると何もできなくて、先輩はものすごく厳しくて。

今は先輩の気持ちがわかるんですけど、当時はもう「怖い」としか思えなくて。意見を聞かれて答えると「は?」「それで?」って。全否定される感じが続いて、なんだか「被害者」みたいな気持ちになってしまっていました。

帰り道、運転しながら涙が出るし、病院の駐車場で好きなアニメの『名探偵コナン』を観てからじゃないと家に帰れなかったりとか。直接「向いていない」と言われたわけではないんです。辞めるときも「もうちょっと続けたら?」って言われるぐらいで。でも当時の私の心には「あなたが言う?」って気持ちにしかならなくて(苦笑)。
当時助けられた「名探偵コナン」のDVDと漫画たち(写真提供:れなさん)

――だいこんさんはいかがですか?

だいこんさん だいこんさん
私は准看護師の資格を取ったのが35歳なんですよ。准看の学校に通いながら、シングルで子どもも養わなきゃいけなかったので。実習ではヘンダーソンの記録の書き方を一切教えてもらえないまま現場に放り込まれて、ひたすら「ダメ、ダメ」って言われ続けて。で、基礎実習の終わりに腎盂腎炎で入院して。

実習中ってなかなかトイレに行けないじゃないですか。そのせいで(苦笑)。卒業式にも間に合わなかったし、慢性期病院に入職した後も「なんでできないの?」って言われ続けて、「それを私が聞きたいよ!」って心の中で思いながら、結局半年で辞めてしまいました。冷静に考えると、できなかったわけじゃないんですけど、言われ続けると動けなくなる悪循環がありましたね。
せんさん せんさん
わかる、わかる。言われ続けると、もうほんとに「自分がダメなんだ」って思えていくんですよね。
れなさん れなさん
もはや洗脳みたいになっていきますよね……。

――社会人経験がある看護師ならではのギャップもありましたか?

だいこんさん だいこんさん
たしかに、一般企業ってある程度マニュアルがある仕事も多いじゃないですか。でも看護師はマニュアル通りにいかないことがほとんどで、ペアになる人によって言うことも全然変わって。正解がないことについていけなかった部分はありましたね。

環境が変わったら、看護師のままでも前を向けた

――つらい新人時代を経て、「続けていけるかも」と思えたのはどんなときでしたか?

れなさん れなさん
私は、精神科の急性期病棟に転職したときですね。当時「まず病棟で3年」という言葉が頭にあって、産科で心を病まれるお母さんたちのケアを学びたいという思いから精神科を選んだんです。産科のときの気持ちを引きずって入ったんですけど、そこの先輩たちが「できなくて当たり前じゃん、やったことないならやればいいじゃん」っていうスタンスで。

毎日入院、入院、入院で忙しくて。採血が苦手でも、髭剃りが初めてでも、もうやるしかなかった。「向いている」「向いていない」って考える暇がないくらい毎日新しいことに挑戦していたら、気づいたらその考え自体を忘れていました(笑)。

――環境が変わると、こんなに気持ちも変わるんですね。

れなさん れなさん
産科では散々でしたけど、「礼節」だけはしっかり学べていたので(笑)。忙しそうな先輩に「できることありますか」って声をかけたり、空気を読んで手伝いに行ったりすることは、自然とできていて。そうしたら「これやってみる?」って仕事を任せてもらえるようになって、患者さんとの関わりも増えていきました。

で、しばらくしたら患者さんから直接「れなさんには自分のことが話せるよ」「前向きに生きようかなって思えた」って言ってもらえるようになって。自分の看護が間違ってなかったっていう答え合わせみたいになって、それが大きかったですね。

――続いて、だいこんさんはどうでしたか?

だいこんさん だいこんさん
半年で辞めたときは、もう「看護師怖い、関わりたくない」って思っていたんですよ。でも自分のために働くしかなくて、有料老人ホームに行ったら「あれ、そうでもないぞ」ってなって(笑)。いろいろ転々として、年功序列でまとめ役になったときに周りを見る余裕が生まれたんです。そうしたら……「向いていない」とか言っている先輩たちって、仕事できてないよな、って思えてきて。「お前も仕事してないよな、言える立場かな?」って(笑)。そこからちょっと楽になりましたね。

でも一番大きかったのは、老健のときの師長に「あなたがいてくれて本当に助かるわ」って言ってもらえたときです。私、ここにいていいんだ、看護師やっていいんだって。そこから、准看のままでいいやと思っていたのに正看も取ろうって思えました。
だいこんさんの趣味「雪中キャンプ」の様子。冬の休日は雪山でリフレッシュしているそう。
雪の中で食べるご飯とお酒で、エネルギーチャージ。

――「言っている人ほど仕事してない」って話、せんさんとれなさんもめちゃくちゃ頷いていましたけど(笑)。

れなさん れなさん
先輩側になってみるとわかるんですよね……思い当たりすぎて(笑)。
せんさん せんさん
すぐ顔も思い浮かぶくらい、そういう先輩いますよね(笑)。

――せんさんのターニングポイントも聞かせてください。

せんさん せんさん
プリセプターが「あなたには任せられない」と言いながら、見捨てなかったんですよ。事あるごとに「比べるのは昨日の自分だよ」って言い続けてくれて。ただ、そこが大きなターニングポイントだったかというと……言葉は不適切かもしれないけど、「かろうじて死なないで済んでいる」という感覚のほうが近かったですね。

その中でもタイマーを5個ポケットに詰め込んで自分なりに忘れ対策したりして(笑)。なんとかやっていけるようになりたいっていう、自分への苛立ちみたいな感情はずっとあったんですよ。

で、3年目に透析室に異動になって、最初は「島流しだ……」ってへこんだんですけど、そこが実は一番のターニングポイントになって。透析の業務ってルーチン化されているものが多くて。でも、ハマるほどに奥が深い。

1年くらいやっていくうちに、患者さんの透析中じゃない日常生活にも目を向けられるようになって……。それが実は透析看護の強みじゃないかって気づいたときに、看護が楽しくなってきました。

でも、結局大学院でも留年していますからね。「専門看護師に向いていない」って思った時期もありますよ(笑)。
当時、異動してすぐに買った透析の専門書たち
今はスマホのタイマーを常用

看護師に「向いてない」からこそ「面白い」?
悩んだ末に辿り着いた、ちょうどいい距離感

――今も看護師向いていないと感じる部分はありますか?

だいこんさん だいこんさん
正直、表面的な「共感」が苦手で。患者さんの気持ちに寄り添うっていうのが、どこかポーズのようになってしまっている気がして、今でも「向いていないなぁ」とは思いますよ。ただ逆に、患者さんや家族が「どう過ごしたいか」。言い方は変かもしれないけど「どう死んでいきたいか」を、依存しすぎない目線で整理して話し合える。それはメリットかなって折り合いつけながらやっていますね。

新人さんを見るともうキラキラ眩しくて(笑)。看護は面白いとは思うんですよ。向いている向いていないで考えると、私は向いていないんだけど、面白くはあるっていう感覚ですね。

――せんさんは今「看護師に向いている」という感覚はありますか?

せんさん せんさん
今はわりとがっつり向いていると思っていますね。看護師のキャリアって、レールに乗っていくことを良しとするような風潮があると思うんですよ。そこから自分なりの色がちょっと作れてきているなって感じられるので、うまくいっているかなと。まあ今は能力を超えた仕事がありすぎてアップアップしていますけど(笑)。

大学院って、自分のできること・できないことを徹底的に可視化していくんです。専門家だからこそここができる、でも自分の限界はここにある、だからその先は別のアプローチや適する人につなぐ。そんな自己洞察をやりまくる場所で。専門看護師になって自分の言葉に説得力が出てしまうからこそ、「余計なことは言えない」っていう感覚はものすごくあって。「向いていない」と思い続けてきたことが、慢心しない理由になっているのかもしれないですね。

――れなさんはどうでしょう?

れなさん れなさん
一番自信が持てたのは、なんだかんだ訪問看護でした。病棟でうまくいっていたとき、「この先輩たちがいるからできているのかも」ってどこかで思っていたんですよ。「ここでしか働けない看護師になってしまう」感覚がすごくあって、それが嫌だったんです。

でも1対1の訪問看護で、自分の看護が通用するんだって思えたときに、「あ、向いているかもしれない、精神科に」って、やっと言えるようになって。精神科って同じ病名でもそれぞれ違うし、成育歴や家族関係や今いる環境もぜんぶ絡んでくるから、アプローチを毎回試行錯誤していて、それが飽きなくて。「この道でよかった」という感覚は、ずっとあり続けていますね。
訪問看護の相棒は利用者さんから人気があったカルシファーバッグ

必ずどこかに、看護師としてのあなたの場所はある

――今まさに「向いていないかも」と悩んでいる看護師さんへ、何かメッセージがあれば聞かせてください。

だいこんさん だいこんさん
やっぱり業務の指摘は聞かなきゃいけない。でも、そこから人格否定に進んだら、もうシャットダウンしていい。「なんでできないの?」で止まって具体的な改善策も言わない先輩の言葉なんて、「あ、すみません~」としれっとかわすぐらいでいいと私は思っています。だって、否定しかしない人はどうせ何をしても否定しかしないから(笑)。
せんさん せんさん
そういう指摘は、その人が感情で話しているだけだから気にしなくていいですよね。でも……20年前の自分に言っても、「そうは言ってもさ」ってなるんでしょうけど(笑)。当時の自分にあったのは、なんとかやっていけるようになりたいっていう苛立ちみたいな感情で。でも今思えば、それが原動力だったんだなと思います。

――たしかに。でも少し時間が経ってから振り返ってみると、「あれ、理不尽だったよな」って気づくことってあると思うので。同期とか友達に愚痴を話してみるのもいいかもしれないですよね。

れなさん れなさん
そうですよね。今でも自分が合ってないかもって思うことは正直あって。私自身も、転々としながら今の場所にたどり着いたので。合ってない場所があっただけで、どこかに必ず自分が働ける場、やりがいを感じられる場はあると思うので。諦めないでほしいというのは、めちゃくちゃ思っています。
せんさん せんさん
一旦離れる選択も全然アリじゃないですかね。自分のペースを見つけて、自分のペースでできる職場が見つけられるといいな、と思います。
だいこんさん だいこんさん
あと、仕事以外の別の世界を持つのも大事だと思います。「次はあれがあるから、仕事頑張ろう」って思えることが、続けていく力になりますから。

――「向いていない」って自分の問題だと思い込んでいましたけど、環境や指導する側の問題でもあるかもしれないし、そもそも「向いていない自覚」があるからこそ丁寧に、誠実に働き続けられるのかもしれないと、とても腑に落ちた気がします。みなさん、ありがとうございました!

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