たこ焼き屋で昼から一杯。小さな楽しみが、私に力をくれる

公開:2025.01.13

夜明けとともに紡がれる、看護師たちの物語。
長い夜勤を終え、スクラブを脱ぎ、疲れた足を引きずりながら帰路につく。疲れを癒すのは、夜勤明けの一食「明け飯」。冷えたピザを急いで頬張る者もいれば、家族の愛情が詰まった栄養満点の朝食を楽しむ者も。

「明け飯」には、単なる空腹を満たす以上の意味があるのかもしれません。
安堵感、達成感、時には寂しさや切なさ。様々な感情が交錯する、特別な時間。

特集「明け飯のはなし」では、看護師の皆さんの心に刻まれた「夜勤明けのご飯」にまつわるエピソードをお届けします。

第5回は、関西で緩和ケア病棟に勤務する40代・ナースの大森ちゃん さんのエピソードです。

たこ焼き屋で昼から一杯。小さな楽しみが、私に力をくれる

私が『明け飯』という習慣をはじめたのは、職場環境が大きく変わった時期だった。

病棟の人員が半分入れ替わり、夜勤スタッフも3人から2人に減った。ベテラン看護師が一斉に異動になり、緩和ケア病棟なのに十分なケアができない自分を責め続けた。

家に帰っても患者さんやご家族のことが頭から離れず、不眠に陥り、心療内科のお世話になるほどだった。

「さすがにこれはあかん」と思った私は、自分をいたわる何かを探し始めた。
そうして生まれたのが『明け飯』だ。

夜勤中の18時間、私たちは常に誰かのことを考えている。

患者さん、家族、同僚や他職種…。
夕食だって10分程度でかき込むような状況だ。

でも、『明け飯』の時間だけは違う。これは私だけの時間。仕事のことは考えない。
ただ「よく頑張ったね」と自分を褒め、美味しい食事をゆっくりと味わう。

これが私の小さな、でも大切な贅沢なのだ。

実は、『明け飯』は夜勤がはじまる前から始まっている。
「明けたらあのお店に行こう」と決めておくからだ。

この小さな楽しみが、長い夜勤を乗り越える力をくれる。

ガッツリ系、おしゃれ系、地元のお店…。SNSやテレビで見つけた気になるお店は「明け飯候補」としてリストアップしてある。

明けの時間帯はお店の開店と同時に入れるから、普段は混んでいるお店でもゆっくりできる。

この日は、たこ焼き屋さんに立ち寄り、昼間からビールを飲んだ。
ねぎがたっぷり乗ったたこ焼きを頬張りながら、ビールを流し込み、幸せをかみしめる。

後ろの人が「昼からビール…うらやましい」とつぶやいていた(笑)。

美味しいものを食べて、家に帰るとお風呂に入ってすぐ寝る。

こうしているうちに、自然と眠れるようになった。

時々、同じく明けの看護師さんたちに出会うこともある。

聞こえてくる会話から「あ、同業者だ」とすぐわかる。
「えっ、一晩でそんなことが何回も!?」なんて話題が聞こえてくると、まるで一緒に頑張った仲間のような親しみを感じる。

心の中で「お疲れさま」と伝えずにはいられない。

30代の頃は明けで遊園地に行って閉園まで遊んでも平気だったけど、40代に入った今はさすがにキツい。

先輩たちが言っていた「40の壁」を私も痛感している。でも、まっすぐ家に帰るのはなんだかもったいない気がして。

だから今の私には、『明け飯』がちょうどいいセルフケアなんだ、とそう思っている。

企画:ナースライフミックス編集部
編集:白石弓夏
イラスト:こんどうしず
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