看護師が選べる道は一つだけ? 本読んで考えた。(考えたひと:ちゅお)

公開:2025.04.09

本好きの現役ナースたちが集まるプロジェクト「#看護師さんと本屋さん」のメンバーが、本を読んで考えたアレコレについて共有するコラム「本読んで考えた。」
看護の現場での体験や、本を読んで気づいたことなどをリレー形式でご紹介していきます。

今回は「看護師が選べる道は一つだけ?」について、ちゅおさんが考えました。
<今回の「考えた」ひと>
ちゅお
脳卒中センターで勤務する看護師。「教える」「学ぶ」ための効果的な方法をアメリカで学び修士号を取得。現在は、病院勤務と並行して研修講師、学会発表、執筆などの活動を行っている。将来の夢は絵本作家になること。

1997年冬。本棚から毎晩2冊、好きな絵本を選んで両親に読み聞かせてもらうのが日課だった。
絵本が紡ぐ世界は特別で、私をどこへでも連れて行ってくれる魔法のような存在である。

絵本から活字の世界へと没頭していった私は、「絵本作家になる」と文集に書いていたものの、気がつけば病棟を駆け回る看護師となっていた。

絵本を開かなくなることが大人になった合図かもしれない。

未来のだるまちゃんへ|かこさとし(著)

だるまちゃんとの再会

2022年夏。25年の時を経て、絵本の中の友人と再会を果たした。かつて大のお気に入りだった「だるまちゃん」シリーズや『からすのパンやさん』を生み出した絵本作家、かこさとし(加古里子)さんの展覧会(かこさとし展-子どもたちに伝えたかったこと)が渋谷で開催されたのだった。

会場を訪れると、一瞬であの頃にタイムスリップしてしまう。原画に目を奪われると、懐かしさで全身が熱くなった。

最後に立ち寄ったグッズ売り場で手に取ったのが、かこさん自身の言葉で人生を綴った一冊、『未来のだるまちゃんへ』(文藝春秋、2016)だった。表紙でにっこりと微笑むだるまちゃんと思わぬ形で再会し、思わず顔がほころぶ。

この本には、かこさんが絵本作家になるまでの道のりや大人になっていく子どもたちへの想いが詰まっている。読み進めて驚いたのは、かこさんが絵本作家でありながら企業に勤め、47歳で退職するまで「二足のわらじ」を履いていたという事実だ。そのことについて触れた一節が目に止まる。

社会に出て、それぞれの現場で、出会った人たちに揉まれながら、一緒になって働いてみないとわからないことが多々ありました。絵本をつくるにしても、そういう世の中の実態や実情を「知らないでやる」のではなくて、「知ったうえで、とりかかる」というのが、僕の大前提となりました。大人になったからには、やっぱり、純粋無垢なお坊ちゃんでやってたのではダメで、表もあれば、裏もある、手練手管もある世の中なんだってことを、当たり前に知っていなければ、と考えたのです。そうでなければ、自分自身の足元だっておぼつかないし、子どもたちに何を伝えるかも間違ってしまう。(p.223)”

“絵本なんて子ども相手の仕事だと見くびったら、そんなのは子どもたちにすぐ見破られてしまうのです。子ども相手だからこそ小手先の技やごまかしは通用しない。・・「自分はこう思うけれど、これでどうだ」と、こっちも自分の人格や培ってきた経験や思考を精一杯さらけ出してこそ、子どもも応じてくれるわけです。それには、やはり僕自身が、会社でも、人々にも、世間にももまれて、人として通用する人間にならなければならない。(p.230)”

当時の私は、フルタイムで看護師として病院で働きながら、院外の世界とも幅広く関わっていた。海外の大学院で修士号を取得し、帰国して1年が経とうとしていた時期である。

ありがたいことに、多くの講演や執筆の依頼をいただき、自分が本当にやりたいことに取り組める充実感に満ちていた。その一方で、休みの日や夜勤明けの時間をほとんど準備や執筆に費やす日々が続いていた。

締め切りを守らなければ信用を失う、活動を続けなければ次の依頼は来ない、そう自分にプレッシャーをかけ、必死で走り続けていた。疲労がじわじわと体に溜まってくると、いっそのことパート勤務にしようかな、いや、むしろどちらかに絞ろうか、とそんな考えが頭をよぎることがあった。そんな最中で、微笑むだるまちゃんとかこさんの言葉に救われたのだった。

看護師が二足のわらじを履くこと

ベストセラー絵本作家のかこさんと自分を重ねてしまうなんて本当におこがましい話だが、かこさんの言葉にガツンと心を打たれた。がむしゃらに二足のわらじを履き続けてきたからこそ、かこさんが生み出す絵本はホンモノなのだ。50年以上経った今でも、書店の目立つ場所にかこさんの作品が並んでいるのは、まさにそういうことだと思う。どちらも本業で、どちらも必要で、互いに影響を及ぼし合って、輝くのだ。

私が開催した研修の参加者アンケートで、「でてくる事例が、どれも自分のことだと感じました」「明日からの実践に活かしたい」といったコメントをもらうたびに、伝えたいことが届いているんだと実感できる。それが、何よりも嬉しい。

そしてその実感は、私自身が医療現場に立ち続け、患者さんへのケアを模索し、上司との関わりや後輩指導に悩みながら日々奮闘しているからこそ得られるものなのだ。かこさんの言葉を借りれば、私は「世間にもまれている」からこそ伝えられるものがあるのだと思う。だからこそ、私はまだまだ伝えたいことがたくさんあって、その中身はホンモノでありたいと心から思う。

看護師とモデル、看護師とイラストレーター、看護師と写真家…。

私が知っているだけでも二足のわらじを履きながら輝いている人たちがたくさんいる。きっと「現役看護師」として泥臭く働くことが、もう一方の道をより一層光らせているのだろう。別の姿を持ちながら走り続ける看護師たちの姿は、本当にかっこいい。

もちろん、二足のわらじを履き続けることは決して簡単ではない。覚悟がいるし、周囲のサポートや時には迷惑をかけることだってある。それでも、どちらも手放さずに真摯に全うする姿は、きっと誰かの心に真っ直ぐに伝わり、新たな原動力を生むのだと思う。

私はどちらも頑張りたい。25年ぶりに偶然再開したちいさいだるまちゃんは、そんな自分の選択をそっと肯定してくれたような気がした。

親になって、ふたたびだるまちゃんと

2025年冬。昨年娘が生まれ、今度は母になってだるまちゃんと再会した。まだ言葉もわからない6ヶ月の赤ちゃん。少し早いかなと思いつつも、児童書コーナーでだるまちゃんと目が合った瞬間、買わないという選択肢はなかった。娘はまだ「だるま」が何かわからなくても、赤いイラストを指でなぞる小さな姿をみると心にくるものがある。

子どもの頃に大好きだっただるまちゃん。看護師として背中を押されたあと、今度は母として再会することになった。新しく「育児」というわらじが加わり、いまや足の数が足りないほどである。でも、不思議となんとかなりそうと思える。「いくつものわらじを履いたっていいんだよ」絵本の中のちいさいだるまちゃんが、そう語りかけてくれる気がする。

▼紹介した本
かこさとし:未来のだるまちゃんへ(文藝春秋, 2014)

文:ちゅお
編集:白石弓夏
Nurse Life Mix 編集部 Nurse Life Mix 編集部

Nurse Life Mix 編集部です。「ライフスタイル」「キャリア」「ファッション」「勉強」「豆知識」など、ナースの人生をとりまくさまざまなトピックスをミックスさせて、今と未来がもっと楽しくなる情報を発信します。

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