「食べて、出して、生きる。」――ICUナースが“あたりまえ”の尊さについて、本読んで考えた。
公開:2025.11.12
今回は、ICUで働く看護師の雪花さんが考えたことをお届けします。
雪花
集中治療界隈の認定看護師で最近無事修士になれたおばちゃんです。
食べることは、こんなにも“生きたい”というサインだった
私は食べることが大好きだ。ごはん漫画や小説にドラマもアニメも好きだ。美味しいものを見つけたり食べたりすると、それだけで少し特別な気分になる。
でも便秘に悩み、「ダイエットしなきゃ…」と言い続けながら、今日もまた美味しいものはないかと探している。そんな自分に苦笑いしながら、私はICUで働いている。
ICU界隈では、「早期経腸栄養!」と声高に言われる。患者さんの回復には栄養が不可欠だからだ。けれど現実は、下痢が止まらなかったり、何日もお通じが出なかったり…。
患者さんからの「水が飲みたい」という発言はよく聞くわりに、「お腹が空いた」という言葉はあまり聞かない。
食欲が戻るには、それだけ大きな命の力が必要なのだと実感する日々の中で出会ったのが、頭木弘樹さんの『食べることと出すこと』だった。
「味わいたい」という、命の中の静かな声
最初は表紙のゴリラに目を引かれた。この本は、闘病生活の中で、当たり前に思われる「食べる」「出す」という行為が、どれほど深い意味を持っているかを、静かに力強く伝えている。
なんといっても強烈だったのが舌、何か味がしてほしいのだ』
筆者は、食べることが治療上できないけれども、食べる・食べたい・空腹・でも栄養は点滴で足りているという不思議な感覚を本書で伝えている。そんな表現に、私はICUで見てきた患者さんたちの姿を重ねずにはいられなかった。
「お腹が空いた」と話す患者さんは少ないけれど、それは治療上、口から食べられないのは当然だという固定概念で見ていたように感じる。本当は、患者さんの中にも「味わいたい」という強い欲求があるのではないか。
食べて、出して、また食べる――それが“生きるリズム”
ふと、最近目にした日本肥満学会のニュースを思い出した。行き過ぎたダイエット志向への警告だ。「やせていること=正しい、きれい」という価値観にとらわれすぎることへの、健康を損なうリスクがある、という注意喚起は本書のメッセージと重なる。
それを聞いたとき、私は妙に納得した。栄養摂取も、排泄も、身体が持つ本来のリズムに素直であること。それを大事にすることこそ、“生きる”ことなんだと思う。
単なる数字合わせや見た目のためのダイエットではなく、食べて、出して、また食べるという、生きるリズムを守ること。それが何より大切なのだと。
ICUの患者さんたちを見ていると、なおさらそう思う。口から食べられること、自然に出せること。それは、治療の効果を感じることでもあり、生きる喜びそのものでもある。
「当たり前」のケアに、もう一度目を向けて
私はこれからも、便秘に悩みながら、美味しいものを食べ、ダイエットは明日からと笑うだろう。でも、それでもいい。食べて、出して、また食べる。生きるとは、その繰り返しだと、この本が教えてくれた。
余談だが、この本では1つひとつのケアが患者さんにとってどう感じるのかも詳細に描かれている点もオススメしたいところだ。
読むたびに、「看護の原点」に静かに立ち返らせてくれる。
▼紹介した本
「食べることと出すこと(シリーズケアをひらく)」
頭木 弘樹【著】(医学書院)
編集:白石弓夏
Nurse Life Mix 編集部です。「ライフスタイル」「キャリア」「ファッション」「勉強」「豆知識」など、ナースの人生をとりまくさまざまなトピックスをミックスさせて、今と未来がもっと楽しくなる情報を発信します。






















