看護の現場から見つめ直す、内なる「自己責任論」について、本読んで考えた。(考えたひと:白石弓夏)
公開:2025.05.28

看護の現場での体験や、本を読んで気づいたことなどをリレー形式でご紹介していきます。
今回は「看護の現場から見つめ直す、内なる『自己責任論』」について、看護師でライターの白石弓夏さんが考えました。
白石弓夏
看護師兼ライター。小児科や整形外科病棟で10年以上勤務。転職の合間に派遣でクリニックやツアーナース、健診、保育園などさまざまな場所での看護経験もあり。現在は非常勤として整形外科病棟で働きながらライターとして活動して5年以上経つ。
「それは当然」だった?看護師の中に潜む“自己責任論”
「こんな生活を続けていれば、そうなるのは当然だよなぁ」
「これだから○○の患者さんは……」
ある生活習慣病の患者さんのことです。いろいろとこだわりが強く、看護師への訴えも多くて、正直少し対応に困る方でした。そんな患者さんを目の前にして、声には出さなくても、心の中でこんなふうに思ったことが何度かあります。看護師として10年以上働いてきた経験から湧きあがる本音かもしれません。今はフリーランスとして働く中で、「自分のことは自分で責任を取る」という考えが、知らず知らずのうちに強くなっていたのでしょう。
宮子あずさ著「看護師が『書く』こと」との出会い。
医療の現場に身を置く私が、実は「自己責任論」という考え方を心のどこかに抱えていたことに、はっとさせられる一冊に出会いました。宮子あずささんによる「看護師が『書く』こと」です。

この本に手を伸ばしたのは、数年前から兼業ライターとして働き始め、ようやく仕事が軌道に乗り始めた頃。これからライターとしてどう歩んで行こうかと悩んでいたときでした。読み進めるうちに、タイトルの通り、「看護師である私が文章を書く意味はなんだろう」と考えるきっかけになったのですが、同時に思いもよらない気づきがありました。
病気は誰の責任か?「生活習慣病」という言葉の影
それが、冒頭でお話しした私の中にあった「自己責任論」です。本書の中で、宮子さんはこう綴っています。

”看護師の立場で病気について書くときは、単純に個人を責めないように気を遣っています。”
”いちばん大きな理由は、「好きで病気になったわけでもないのに、気の毒に……」という気持ちがあるから。また、どんな出来事にも外からはわからない複雑さがあるはずです。”
これは宮子さんの疾病に対する考え方でもあるといいます。また、社会全体がこうした個人の責任を問う方向に流れているようにも見えるとも。この文章を読みながら、自分の視点がいかに狭かったかに気づかされました。
たとえば『生活習慣病』という言葉。この名称自体が、いつの間にか患者さんを追い詰める刃となっているような気がします。かつて『成人病』と呼ばれていたものが『生活習慣病』という名称に変わったことで、まるですべてが個人の責任であるかのような印象を与えてしまっているのではないでしょうか。もちろん予防の大切さを伝えるための変更だったはずですが、結果として患者さんを責める風潮を強めてしまった面は否めないとも思います。
想像力と寛容さを取り戻すために
私たち医療者は、ついつい「正しい生活習慣」を教える立場になりがちです。でも、その背景には、1人ひとりの人生におけるさまざまな事情があることを、どれだけ想像できているでしょうか。夜勤をせざるを得ない仕事、経済的な理由で健康的な食事を選べない現実、家族の介護で自分の健康まで手が回らない状況……そこには、個人の意思や努力だけでは解決できない、社会のしくみそのものの問題も横たわっているのかもしれません。
著者の宮子さんは、看護師だからこそ持ちうる「人間のちょっと抜けた行動への寛容さ」についても語っています。医療現場で働く私たちが、時に患者さんの些細な失敗を笑い合えるのは、実は深い人間理解があってこそなのかもしれません。特に印象的だったのは、宮子さんが「書く」という行為を通じて、この寛容な視点を社会に広げようとする姿勢です。看護師である私たちが「書く」ということは、単なる情報発信以上の意味があります。それは、医療の現場で培った人間への深い理解と寛容さを、社会に伝えていく大切な役割のようにも感じます。
看護師として、書き手として
私自身、看護師としての経験を持ちながら文章を書く立場として、この本との出会いは大きな転換点となりました。時に厳しい現実と向き合う医療の現場だからこそ、私たちには特別な視点が与えられています。人間の弱さや不完全さを受け入れながら、それでも希望を見出そうとする姿勢。それは、看護という仕事を通じてしか得られない貴重な経験なのかもしれません。
病気や健康について語るとき、安易な「自己責任論」を超えて、その人の人生全体を見つめる視点を持ち続けたい。それが、この本から教えてもらった大きな気づきでした。
▼紹介した本
宮子 あずさ 著|看護師が「書く」こと(医学書院)
看護師兼ライター。小児科や整形外科病棟で10年以上勤務。転職の合間に派遣でクリニックやツアーナース、健診、保育園などさまざまな場所での看護経験もあり。現在は非常勤として整形外科病棟で働きながらライターとして活動して5年以上経つ。
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