看護師の離職問題、他の病院はどうなの…?調査データから離職の傾向が明らかに!

公開:2024.09.19

ハルジローのオンライン看護学院の連載「おしえてハルジロー!ナースのQ&A」では、看護師の素朴な疑問に、看護師&医学博士&研究者の視点から論文や調査データなどのエビデンスをもとに解答する企画です。

今回のテーマは「看護師の離職問題」について。

若手の離職が病院内でも話題。他の病院はどうなの?

新人看護師さんが入ってきても、すぐに辞めてしまうことが多いです。できることなら、少しでも長く働き続けてほしいのですが…。若手の離職は病院内でも話題になっています。他の病院はどうなのでしょうか?

調査データから、離職の傾向をみてみよう!

離職問題はどの施設でも重要な課題ですよね。

「2023年病院看護実態調査報告書」のデータをもとに、病院の規模や都道府県ごとの傾向、離職理由などの傾向を一緒にみていきましょう!

病床規模別の離職率

正規雇用看護職員の離職率が最も高い病床規模は、「100~199床」(12.8%)、次いで「99床以下」(12.7%)、「200~299床」(11.8%)でした。新卒採用者の離職率が最も高い病床規模は、「99床以下」(13.8%)、次いで「100~199床」(12.3%)、「300~399床」(10.8%)でした。既卒採用者の離職率が最も高い病床規模は、「99床以下」(19.5%)、次いで「100~199床」(18.7%)、「200~299床」(16.2%)でした。

正規雇用看護職員・新卒採用者共に病床数が少ない病院の方が離職率が高い傾向があります。この結果から「病床数が低い病院が労働環境が悪い病院」と結論づけてしまいがちですが、それは言い切れません。

仮に、「大きな病院で働くことに不安を持っている人が病院規模の小さい病院を選ぶ可能性」などがあると考えた場合に、入職した時点で規模の大きい病院と規模の小さい病院とでは入職している看護師が同じ状態ではないため、単純に離職率だけでは比べられなくなります。そうすると、この数字の意味とは?と思ってしまいますよね。

しかし、この統計結果から、規模の小さい病院ほど、管理職は採用などにより難渋していることが推測されます。単純に離職率の高さだけではなく、規模が小さい病床の方が、必要最低看護師数が少なくなるため、全看護職員数は少なく、自ずと看護師1人の退職の重みは高くなります。そのような状況の中で、規模の小さい病院ほど離職率は高くなっていく傾向があるため、人材確保に掛ける労力はより加速していると考えられます。これらを管理する側の人にとってはかなり厳しい状態であると考えられます。実際に規模の小さい医療施設の管理職(部長クラス)の人と話をすると、人材確保は難しいという話をよく聞きます。

この結果から、小規模病院ほど労働環境が悪いとはいえません。しかし、管理職は小規模病院ほど大変であると考えられます。

都道府県ごとの離職率

正規雇用看護職員の離職率が最も高い都道府県は「東京都」(15.5%)、次いで「大阪府」(14.3%)、そして「神奈川県」と「兵庫県」がいずれも13.7%でした。

▼正規雇用看護職員の離職率が高い都道府県
①東京:15.5%
②大阪:14.3%
③神奈川/兵庫:13.7%

新卒採用者の離職率が最も高い都道府県は「高知県」(25.5%)、次いで「香川県」(16.9%)、「熊本県」(13.9%)でした。既卒採用者の離職率が最も高い都道府県は「長崎県」(22.9%)、次いで「愛媛県」(21.0%)、「熊本県」(20.7%)でした。

▼新卒採用者の離職率が高い都道府県
①高知:25.5%
②香川:16.9%
③熊本:13.9%

▼既卒採用者の離職率が高い都道府県
①長崎:22.9%
②愛媛:21.0%
③熊本:20.7%

新卒採用者の離職率が最も低い都道府県は「福井県」(3.9%)、次いで「石川県」(5.4%)、「秋田県」(5.6%)でした。既卒採用者の離職率が最も低い都道府県は「和歌山県」(7.9%)、次いで「三重県」(8.2%)、「石川県」(8.9%)でした。

▼正規雇用看護職員の離職率が低い都道府県
①岩手:6.5%
②鳥取:7.2%
③徳島:7.2%

▼新卒採用者の離職率が低い都道府県
①福井:3.9%
②石川:5.4%
③秋田:5.6%

▼既卒採用者の離職率が低い都道府県
①和歌山:7.9%
②三重:8.2%
③石川:8.9%

採用者の離職率に関しては、新卒と既卒で石川県が離職率が低い数値となっていますが、その他の県では地域によっての一貫性などはありません。しかし、正規雇用看護職員の離職率は東京都(特別23区)及び政令指定都市のある県で高く、政令指定都市の人口第七位までの都市で離職率が高い県の上位を占めています。ここには一貫性があるように見えます。

別のデータと比べてみましょう。下記の2022年の雇用動向調査での全職業での離職率の高い都道府県、上位3県を見てみると、看護職員の離職率の動向とは大きく異なるようです。このことから、看護師は一般的な仕事の離職率の傾向と異なり、看護師は都市部では離職率が高くなる傾向がある職種と考えられるかもしれません。ここにはまだ調査が行われていないので、ぜひ読者のみなさんに理由を聞いてみたいところです。

▼離職率の高い都道府県(出典:2022年の雇用動向調査)
①沖縄:24.0%
②佐賀:23.5%
③鳥取:23.3%

新卒看護師の退職理由

2022 年度に採用した新卒採用看護師(正規雇用)のうち年度末までに退職した者が 1 名以上いる病院に、看護管理者が考える主な退職理由を 5 つまでの複数回答でたずねたところ、「健康上の理由(精神的疾患)」が 49.4%で最も多く、次いで「自分の看護職員としての適性への不安」が 45.5%、「自分の看護実践能力への不安」が 40.5%、「上司・ 同僚との人間関係」が 27.6%、「他施設への関心・転職」が 23.4%でした。

①健康上の理由(精神的疾患):49.4%
②自分の看護職員としての適性への不安:45.5%
③自分の看護実践能力への不安:40.5%
④上司・ 同僚との人間関係:27.6%
⑤他施設への関心・転職:23.4%

<仮眠環境の設備>
仮眠専用の個室があるかどうかも重要な要素です。調査によると、42.5%の病院には仮眠専用の個室がありません。一方で、仮眠専用の個室がある病院では、以下の設備が整っていることが多いです。

・清潔な寝具:45.6%
・空調がされ、適温に保たれている:44.7%
・勤務部署内に設置されている:44.1%
・適切な硬さのベッドマットレス:32.8%
・施錠され、安全が保たれている:32.4%

適性への不安や実践能力への不安、人間関係という面は、転職によって解決されることがあると思います。一方、約半数を占める「健康上の理由(精神的疾患)」での退職は、すぐに別組織で働けるようにない心身状態にあると考えられます。辞める側にとっても、辞められる側にとっても深刻な問題となってから離職が生じていると考えられます。

転職も、臨床以外で働く選択も悪いことじゃない。自分にフィットする場所を選ぼう。

ここまで調査結果を元に紹介してきました。

離職率は問題視されがちですが、私が大前提として重要だと考えているのは、転職も、看護師として臨床で働かない選択も悪いことではないということです。

人それぞれ適切な仕事や専門領域はあるので、辞めようとしている人を無理に留めることにも本来意味はありません。“業界に残ることこそ全て“のような価値観をもつ人もいるかもしれませんが、看護の仕事を経験した人が、さまざまな場所で活躍していく世界も素敵な未来ではないでしょうか?

今後はSNSなどを通じて様々な働き方ができる業界になることを願っていますし、もっと働きやすい世の中になるように、これからも皆さんに最新の情報をお伝えしていきたいと思います!

(出典: 2023年病院看護実態調査報告書)

企画・監修:ハルジローのオンライン看護学院
イラスト:YUI
ハルジロー ハルジロー

集中治療領域で看護師として働きながら、博士課程修了(救急・集中治療医学専攻)。Youtube/Instagram/TikTokで教育コンテンツを配信中。
クラウドファンディングで作成した著書は達成率1458%(1,458,600円)となり看護学部門でAmazonベストセラーランキング1位を獲得。
研究者としても多くの英論文を発表している。

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