手袋の上から消毒!?それいいんですか!?2023年に行われたアメリカの研究から答えに迫る!
公開:2024.12.02
今回のテーマは「手袋の上から消毒。それってあり!?」について。
手袋の上から消毒。それってあり!?
「よーし次の患者いこうか!シュー」先輩は手袋を変えずに、手袋の上からアルコール消毒を実施した。
「それアリなんですか?」思わず質問した。
「消毒したから殺菌はできてるよ!ちゃん原理を考えればわかるでしょ!効率的で良いよ。」確かに!と思いつつ本当にいいのと新人看護師の私は疑問に思いました。
看護師の仕事はいつも時間に追われています。正直手袋を変える時間が浮くだけでもありがたい……。ただ本当にいいのでしょうか?
結論:手袋の上からの消毒は一人の患者のケアの中でならあり
※ただし上記の先輩みたいに別の患者にケアする際に手袋の上から消毒するのは「なし」です。 同じ患者の別のケアをする際に手袋の上から消毒することで、日常のケアよりも感染を防止できるかもしれません。
2023年にアメリカで行われて研究を紹介します。
PMID: 37994538、DOI: 10.1017/ice.2023.243
本当に手袋変えて消毒している?理想を押し付けるだけが正解?
医療現場では、医療従事者の手指衛生が感染予防の基本となります。
特に、患者に触れる際には手袋を着用していることが多いですが、手袋をしているからといって、細菌やウイルスから完全に守られているわけではありません。そのため、こまめに消毒する必要があります。
消毒のタイミングは
①患者に接触する前
②清潔操作をする前
③体液に触れた可能性のある後
④患者に接触した後
⑤患者周囲環境に触った後
と5箇所もあり、実際の現場での運用を考えると非常に大変です。現在の手指衛生の方法では、手袋を脱いで手を洗い、また新しい手袋をつけるというプロセスが必要です。
この手順は正直…「だるい!」。大事なのはわかるけど、時間がかかるため、忙しい看護業務の中では結局徹底されない可能性がります。ルールがあっても、機能せずに使われなかったら感染リスクが高まる原因にもなります。
そこで注目されているのが「アルコール消毒液を手袋の上から直接使用する」という新しい手指衛生の方法です。この方法では、手袋を脱がなくても消毒ができるため、時間を大幅に節約できるだけでなく、細菌やウイルスを減らす効果も期待されます!
今回の記事では、この新しい手指衛生法がどれだけ効果的なのか、従来の手指衛生方法とどのように違うのかについて、研究の結果をもとに詳しく説明します。この方法が実際の看護現場で役立つかどうかを一緒に見ていきましょう。
どうやって調べたの?
今回の研究では、3つの異なる手指衛生方法を比較しました。
- 手袋グループ
- 手袋をつけたままアルコール消毒液を手袋の上から使う方法
- キッチリグループ
- 手袋を外して消毒して、新しい手袋をつけるという従来の手指衛生方法
- 日常グループ
- 特別な指示を出さずに通常通りのケアを行う。
どのように研究を行ったか
まず、研究協力者が医療従事者に対して、【手袋グループ】と【キッチリグループ】での手指衛生方法について指導しました。具体的には、世界保健機関(WHO)が定めた「手指衛生の5つのタイミング」を説明しました。この5つのタイミングには、患者に触れる前や体液に触れた後、患者周囲に触れた後などが含まれます。
次に、研究参加者が実際に患者ケアを行い、その中で最大7回の手指衛生のタイミングがあるかどうかを観察しました。参加者が手指衛生を行った時間や回数やタイミングを記録し、予定された患者ケアが終わるまで観察を続けました。
<手袋のサンプリング>
手袋に付着した細菌を調べるために、各グループの参加者にサンプリングを行いました。具体的には、参加者の左手の手のひらや親指、指をアガー培地に5秒間軽く押し付けてサンプルを採取しました。
【キッチリグループ】では、手指衛生を行い、新しい手袋をつけた後にサンプリングを行いました。【手袋グループ】では、手袋を外さずにアルコール消毒を行い、消毒液が乾燥した後にサンプリングしました。【日常グループ】では、手指衛生のタイミングの直後に手袋の表面をサンプリングしました。
<医療従事者の意見インタビュー>
手袋の上からアルコール消毒液を使う方法について、医療従事者の意見を集めるため、各グループの参加者にインタビューを実施しました。医師、看護師、看護補助者、理学療法士、呼吸療法士などが参加し、それぞれのグループから8〜9名が選ばれました。
インタビューでは、手袋の上からの消毒に懸念があるかを確認しました。
【結果発表!】手袋グループ vs キッチリグループ
まず、アルコール消毒液を手袋の上から使用する【手袋グループ】と、手袋を外して手を洗い、新しい手袋をつける【キッチリグループ】を比較しました。
手袋グループでは、手指衛生にかかる時間が平均14秒だったのに対し、キッチリグループでは28.7秒かかりました。これにより手袋グループの時間効率が良いことが分かりました。
一方でキッチリグループでは67.4%の観察で菌が見つかりましたが、手袋グループでは82.8%で菌が検出され、手袋グループの方がやや高い結果となりました。
菌のコロニー数(CFU)も、キッチリグループの手袋では中央値が2 CFU、手袋グループでは4 CFUと、手袋グループで菌の数が多いことが分かりました。さらに、病原菌の検出率も手袋グループの方がやや高く、7.3%(手袋グループ)と3.9%(キッチリグループグループ)という結果になりました。
【結果発表!】手袋グループ vs 日常グループ
次に、アルコール消毒を手袋の上から使用する【手袋グループ】と、いつもどおりの手指衛生を行う【日常グループ】を比較しました。
日常グループでは、手指衛生が実際に行われたのはわずか2%でした。一方で、手袋を交換するだけで手指衛生を行わなかったのは2.8%でした。特に、体液に触れた後の手指衛生が比較的守られていましたが、それでも20.9%にとどまりました。
手袋に付着していた菌の数を比較すると、日常グループでは98.5%の観察で菌が検出されましたが、手袋グループでは76.6%で菌が見つかりました。さらに、菌のコロニー数は日常グループの中央値が29 CFUに対し、手袋グループでは2 CFUと、手袋グループの方が菌の数が大幅に少ないことが確認されました。また、病原菌の検出率も、日常グループでは28.1%だったのに対し、手袋グループでは7.1%にとどまりました。
手袋破損のリスクと医療従事者の意見
<手袋破損のリスク>
最後に、手袋の破損についても調査しました。日常グループでは、手袋が破れることは一度も確認されませんでしたが、手袋グループでは204枚の手袋のうち6枚(2.9%)で微小な破れが確認されました。この結果から、アルコール消毒液を手袋の上から使用する方法では、手袋の破損リスクがやや高まる可能性があることが示唆されました。
<医療従事者の意見>
研究では、26名の医療従事者にインタビューを実施し、アルコール消毒液を手袋の上から使用する方法についての意見を集めました。
21名(80%)がこの方法に対してポジティブな意見を持っており、特に「時間と手間が大幅に節約できる」「手荒れが減り肌への負担が少ない」といった利点を挙げていました。少数ですが、「消毒によって作業に集中しやすくなる」「手指衛生のガイドライン遵守が向上する」という意見もありました。
一方で、14名(54%)の医療従事者は、特に懸念を感じていないと答えましたが、いくつかの心配も挙がっています。多くの懸念は、「消毒液が乾くのに時間がかかる」「手袋が濡れた状態で作業することが不快」といったものでした。さらに、一部の参加者は、手袋の消毒が適切に行われない場合、患者の安全が脅かされるのではないかと感じていました。また、「手袋が破れるのではないか」「消毒に追加の手間がかかる」といった懸念も見られました。
この報告をどうやって活かす?
今回の研究では、手袋を着用したままアルコール消毒液を使用する方法が、通常の手指衛生に比べてどのような影響があるのかを検証しました。
その結果、手袋の上からアルコール消毒を行うことで、手袋表面に付着する細菌の数を大幅に減らすことができ、感染リスクを低減できる可能性が高いことが分かりました。特に、通常の手袋交換や手洗いに比べて時間の短縮効果が大きく、忙しい医療現場において現実的で効率的な手指衛生方法としての有用性が示されました。
<時間効率の向上と細菌拡散の防止>
従来の手指衛生では、手袋を外してから洗い、新しい手袋を装着する手順が必要で、時間がかかりやすいです。しかし、今回の研究では、手袋を外さずにアルコール消毒液を使用することで、時間効率が大幅に向上し、細菌の拡散を防ぐ効果もあることが確認されました。現場での手指衛生の徹底が難しい状況でも、短時間で効果的に消毒が行えるため、この方法は特に有効と考えられます。
<残る課題と改善の必要性>
しかし、アルコール消毒液を手袋の上から使用する方法にもいくつかの課題が存在します。例えば、消毒液が完全に乾かない状態で作業を再開すると、手袋が「濡れた」状態になり、患者に不快感を与える可能性があります。また、消毒液が手袋に浸透し、微小な破れが生じるリスクも指摘されています。これらの問題点は、今後の研究でさらに検証し、改善策を見つける必要があります。手袋の素材や消毒方法の改良が、さらなる効果と安全性の向上に寄与するでしょう。
<現場での実用性と今後の展望>
総じて、この研究は、忙しい医療現場で手指衛生の遵守を促進するための現実的な解決策を提示しています。アルコール消毒液を手袋の上から使用する方法は、感染予防のための効果的なツールとして期待されますが、さらなる検証と技術的な改善が必要です。
ハルジローのアドバイス:効率と安全のバランスの中で「よりよい方法」を選択していこう。
このように、ただ理想を押し付けるだけでなく、現実的な運用もふまえて消毒方法を評価した研究は面白いですね。
この論文を読んでからベットサイドケアを振り返ってみました。一人の患者さんのケアでは、私自身も体液などが触れる時以外はあまり消毒をせずに次のケアを行っている機会が多々あったように思います。
手袋の上からでも良いと言われると、消毒する意識は強化されるかもしれません。手袋の上から消毒を行う方法でも菌を減らますが、もちろんキッチリやった方が菌は少ないです。気管吸引など、清潔動作が必要となるケアなどはもちろんですが、キッチリと消毒して手袋を交換することの重要性も改めて感じました。
イラスト:YUI
集中治療領域で看護師として働きながら、博士課程修了(救急・集中治療医学専攻)。Youtube/Instagram/TikTokで教育コンテンツを配信中。
クラウドファンディングで作成した著書は達成率1458%(1,458,600円)となり看護学部門でAmazonベストセラーランキング1位を獲得。
研究者としても多くの英論文を発表している。