NPって実際どうなの?大学院、役割、やりがい、医師・看護師との関係……。NP歴10年の診療看護師に「ぶっちゃけ話」を聞いてみた。
公開:2026.04.14
NPは大学院で高度な医学知識と臨床技術を学び、医師の包括的指示や手順書のもとで、特定行為を含む一部の医療行為を自ら判断して実施できる看護師のこと。
NPに興味はある。でも、いざ目指そうとすると、現実的な不安もよぎります。
「大学院に2年通って、本当に元は取れるの?。」「給料は上がるの?」「医師との関係は実際どうなの?」「現場で浮いたりしない?」
ネットで調べても、教科書的な情報ばかり。私たちが知りたいのは、もっと泥臭い「リアル」ではないでしょうか。
そこで今回話を聞いたのが、日本のNP黎明期から活躍するHさん(NP歴10年)。
一度は看護師を辞め、燃え尽きを経験した彼が、なぜあえて過酷なNPの道を選んだのか?
NP教育課程の5期生として大学院を修了し、NPとして心臓血管外科、救急、麻酔科と診療科を横断してきたHさんに、 10年分のぶっちゃけ話を聞いてきました。
(聞き手:白石弓夏)
「お金のため」なら、NPはやらないほうがいい。それでもNPになる価値とは?
――まずは単刀直入に。NPになって良かったですか?お金やキャリアなどいろんな点から、大学院2年間の「元」は取れたと思いますか?
お金は正直、あんまり考えてなかったんですよ。看護師を続けていれば管理職になるなり、黙っていても少しずつ給料は上がるし。それよりも35歳までに大学院を出るって決めていたので、僕の場合、キャリアプランとしてはそこがひとつのゴールでした。結果的に、NPになったことでやりたい看護ができているので、そういう意味では元は取れているかなと思います。
お金の面だけで言うと、実際NPになってからのほうが、最初は給料が下がりました。当時は制度の黎明期で、最初に行った心臓血管外科の病院では「お前、何ができるの?」からのスタートだったんです。看護師10年目だったのに、当時は5年目ぐらいの給料でしたね。
看護大学卒業後、大学病院の救急で4年、NICUで1年、救急で4年を経験。フライトナースを目指すも東日本大震災を機に燃え尽き、一度看護師を離れる。透析クリニック、看護大学助手を経て大学院に進学。NP5期生として大学院修了後、心臓血管外科、救急科、麻酔科など複数の領域で経験を積み、現在は国公立系の病院で麻酔科・救急科・外科を横断して勤務。NP歴10年。
――NPの求人情報ではモデル年収として高めの数字が出ていることもありますが、実際はどうなんでしょう。
どうなんでしょう……。職場によるとは思いますが、そんなに甘くはないと思います(笑)。僕の最高年収は心臓血管外科時代の820万円。月7回のオンコール、朝も昼も夜もない生活で残業代をフルでもらって、ようやくその金額です。現実的には、残業月40時間ぐらいやって、基本給に手当を足して総額50万円に届くかどうかっていうのが一つのラインだと思います。NPになることを「お金のため」で選ぶんだったら、やらないほうがいいかも。
ただ、今の病院は国公立系で、NP手当が夜勤10回分ぐらい出るので、10年前に比べたら待遇は良くなってきていると思います。本当に職場や母体によって大きく変わります。
――NPを目指す看護師の中には、「管理職にはなりたくないけど、キャリアアップや給与は上げたい」という動機の人もいると思います。これまで看護師のキャリアアップといえば管理職か認定・専門看護師がほとんどでしたが、NPという選択肢が加わって若い世代の関心も高まっていますよね。
そうですね、後輩たちがNPの存在を知り始めて「ぶっちゃけいくらもらえるの?」ってみんな聞いてきます(笑)。NPを目指す動機はそれぞれですが、関心が高まっているのは嬉しいことですね。
現実的な話としては、NPがすでに活躍している有名な病院って、もう「NPいっぱいです」って枠が埋まってきていることも多いんですよね。研修先でそのまま働きたくても入れないケースもある。だから就職先も含めて、早めに情報を集めておくのがいいと思います。
燃え尽きて辞めた看護師が、NPにたどり着くまで
――Hさんは以前、大学病院の救急でフライトナースを目指していたそうですね。東日本大震災などの壮絶な経験を経て、燃え尽るような形で一度は看護師を辞められたと伺いました。そこからNPにたどり着くまでは、かなり紆余曲折があったと思うのですが。
僕の場合はいわゆる「キャリアアップの王道」じゃないんですよね。一度看護師を辞めてから2〜3か月、とにかく暇で……(笑)。ガーッと気持ちや考えを書き出して、やり残したことがあるかを振り返ったんです。クリニックで地域の人を支える仕事にやりがいを感じつつも、少し物足りなさもあって。そんなとき、恩師に相談したら「教員やれ」と言われたんです。いざ飛び込んでみたら、周りはみんな大学院に行くのが当たり前の環境で、「じゃあ行くか」って。
実は医学部への編入も天秤にかけたんですけど、やっぱり看護師の仕事は好きだったし、看護師としてやり残したことがあると思った。そんなときにNPという存在を知って、一部の医療行為ができると聞いて「こんな仕事あるのか」と強く惹かれたんです。
――看護師としてのやり残し、というのは具体的にどんなことですか?
ICUで人工呼吸器の管理をしていて、患者さんの状態が明らかに良くなっているのに、医師がいないからウィーニング(呼吸器からの離脱)を進められなかった。それで結局、自己抜去されてしまった。術後のドレーンも、抜いていいタイミングなのに医師が来なくて、逆行性感染してしまった患者さんもいたんです。
看護師として、もっと何かできたんじゃないかと、心に引っかかっていました。
もっと身近な話だと、ある大学病院にいたとき、胸痛を訴える患者さんがいて心電図を取ろうとしたら、先輩に「指示がないだろう」って止められたんです。結局あとからわかったのは心筋梗塞だった。「医師の指示がないと動いちゃいけないのか、こっちは」って。教育では「フィジカルアセスメントしっかりやろう」って言っているのに、現場では指示待ちが当たり前。その矛盾がずっと引っかかっていて、NPなら変えられるんじゃないかと思ったのが、今のキャリアを選んだ決め手でしたね。
「元気なバカでいよう」と決めた。プライドを捨てて挑んだ、大学院の2年間
――大学院選びはどうでしたか?今はNP教育課程のある大学院も増えて、カリキュラムや取得できる特定行為の区分も学校ごとに異なりますが。
僕らのときは6校ぐらいしかなくて、実家から通える大学院は一択でした。見つけたのが7月で、願書を書いて、10月に試験、11月に合格がわかりました。後輩に話すと「そんなスケジュールで受かるんですか?」とドン引きされますけど(笑)。
通常、NPを目指す場合は数年前から計画を立てたり、少なくとも半年〜1年ほどかけて受験対策するる人が多いみたいです。
まあ、当時は若さもあって「やるしかない」と勢いで受験してました(笑)。
ただ、今選ぶなら絶対に見学したほうがいい。2年間の勉強よりも、卒業後の環境のほうがずっと長いから。研修制度やバックアップ体制がちゃんとあるかが大事になってきます。
――学費や生活面も気になるところですよね。一部の病院では在籍したまま基本給の何割か支給される制度もあるそうですが、Hさんの場合は?
僕の場合は、実家に戻らせてもらって、水〜土が授業だったので、残りの日は大学病院の救命センターのバイトやクリニックに入っていました。大学の長期休みでがっつり稼いで年収400万ぐらい。学費含めてトータル300万ぐらいかかりましたが、看護師時代の貯金も含めてなんとかなりました。
「バカだったな」と思う瞬間もありましたけど(笑)。なんとか2年で卒業できましたしね。ただ、お金に困ると勉強に集中できなくなるから、経済面の備えはしておいて損はないと思います。
――大学院で一番しんどかったことは?
現場経験があるから、医師とのディスカッションでもちゃんと言葉が出ると思ったんですよ。それがまったく出ない。その時に、「うわ、全然理解できてなかったんだ」って痛感しました。
――現場経験があるからこそ、「わかったつもり」が打ち砕かれるのはしんどいですよね。
びっくりしましたよ。だから早々に「元気なバカでいよう」と決めたんです。わかんないことは「わかんない」って言って、先生にどんどん聞く。
先生たちは好き嫌いで態度を変えないし、できないことをちゃんと教えてくれる。看護師の世界だと、どうしても人間関係や感情が優先されてしまう側面もあり、時には「嫌いだから教えない」といった空気感に直面することもありますが、大学院ではそういったことがまったくなかった。感情的なしがらみに左右されず、純粋に「人を育てる」ことに特化した環境は、正直新鮮でしたね。先生たちは人を育てるのが本当にうまかったと思います。
NPとして、任せられるからこそ、責任が出る
――NPとして働き始めてからの話も聞かせてください。NPは医師の包括的指示や手順書のもとで、どこまで任されるかは施設や医師との関係性によって大きく変わると聞きます。
NPの業務は、どうやっても医師に依存するんですよ。最終的に責任をとる先生が範囲を決めるから、その先生がいなくなったらできなくなるっていう話はめちゃくちゃあります。最初の職場で出会った先生は「NPのことは俺はわからん。だけど、立派な麻酔科医にしてやる」って言ってくれて。「(僕は看護師なのに)何言ってんだ」と思いましたけどね(笑)。でも、僕は嬉しかったです。ああいう「右腕にしてやろう」と思ってくれる先生がいる環境を選ぶのは、すごく大切だと思いますね。
――NPならではのやりがいはどこに感じますか?病棟の看護師だとシフトの時間帯だけの受け持ちですが、NPは外来から術前・術中・術後、退院まで一貫して関われるのが大きな特徴ですよね。
とくに心臓血管外科のときは、そこに一番やりがいを感じましたね。術前に自分が診て、手術に入って、術後管理をして、退院まで見届ける。任せられるからこそ、責任が出る。任せられた以上、「この人は絶対に助ける」って思ってやっていました。
――自分の判断で動くことへの怖さはありませんでしたか?
もちろん怖いですよ、何の行為でも。でも、これをやるために勉強してきたから。不安になるのは知識か経験が足りないときだと思うので、知識だけは負けないようにしようと。もちろん後悔が残る経験もありますけど、失敗しないと学ばないから、そこから逃げちゃいけないと思っています。怖さはあるけど、やってみたら自分が求めていたことが叶った。やっぱりこの仕事は面白いですよ。
「欲しかった答えが全部、NPにあった」
――Hさんは現在、麻酔科・救急科・外科と診療科を横断して、しかも周囲にNPの同僚がいない「野良NP」状態で働いていますよね。NPとしての自分の役割をどう捉えていますか?
自分の役割は「でっかい糊(のり)」みたいなものだと思っているんです。僕は医師ではなく看護師だからこそ、看護師の気持ちもわかるし、NPだから医師の考えもわかる。その両方をうまく翻訳して、くっつけて、患者を助ける。
人や立場によって「助ける」の定義はいろいろあると思うんですけど、僕が目指すのは、必要なフィジカルアセスメントや検査・治療をきちっとやって、患者さんの命を治療につなげるところ。「寄り添うケア」は得意なスタッフに任せて、自分はNPとしてそこに特化しています。あとは、若手の看護師にはどんどん経験させて育てていく。それが僕なりの「助ける」ですね。
――NPの役割について、周囲の看護師からはどんな反応がありますか?
「医者の真似事でしょ?」って言われたこともあるけど、「じゃあやる?」って返すと黙るんで(笑)。採血トレイの片付けを頼まれても全然やりますよ。仲間ですから。「あいつこれやらない」みたいなことって、周りは見つけるのが早いじゃないですか。なので「これはNPの仕事じゃない」みたいな線は引かないようにして、基本的には「全部やる」というスタンスでいます。
――最後に、NPを目指している看護師さんへメッセージをお願いします。
僕の場合ですけど、看護師のときの疑問とか、悔しさとか、後悔とか……本当にいろんな感情や考えがあって、でもNPになって働き出してから、少しずつそれが解消できてきたんですよ。欲しかった答えが、全部ここにあった。
たとえば「医師の指示がないと動いちゃいけない」っていう、看護師にかかった呪いみたいな言葉があると思うんですけど、NPになってからは急変で僕しかいない場面でも、自分の判断で動いて、患者さんを助けることができた。「NPでも、つまり看護師でも、人は助けられるんだな」って。
――看護師としての経験が、NPになってちゃんと活きているんですね。
後輩のNPに「どこまでやっていいのかわからない」って相談されたことがよくあるんですけど、僕は一貫して「全部やれ。全部やってから言え」って答えてます。ちょっと乱暴に聞こえるかもしれないけど、助けるためにやっているんだから、「これはNPの仕事じゃない」みたいな線引きを勝手にして、逃げちゃいけないと思うんです。
まあ、僕の話はあんまり王道じゃないんで、参考になるかわかんないですけどね(笑)。でもNPはこれから絶対増えていくと思うし、仲間が増えるのは素直にうれしいですよ。
