【座談会】都市型応援ナース半年間のリアル。「給料だけじゃなかった」看護師2人が語る、その後のキャリア
公開:2026.07.22
今回お話を伺ったのは、急性期の内科病棟で半年間を過ごした社会人経験あり看護師7年目の「Rさん」と、精神科の急性期病棟で半年間を過ごした看護師8年目の「Mさん」。診療科も年代も対照的な2人ですが、半年間という期限つきの挑戦が、その後の働き方やキャリアの見え方を変えたという点は共通していました。
最初の1週間の戸惑いから、応援ナースを終えたあとに選んだまったく異なる2つの道まで。都市型応援ナースのリアルを聞きました。
カナコさん(仮名)
40代前半の看護師歴7年目。
医療系の技術職から専門学校を経て、38歳で看護師資格を取得。地元の救急病院(3次救急)に就職するも3年で退職し、コロナ禍を経て応援ナースの道へ。大阪から愛知県の総合病院(内科・コロナ混合病棟)へ半年間赴任した。現在は次の常勤先(血液内科)への転職を予定している。
アイさん(仮名)
20代後半で看護師8年目。
新卒で整形外科の急性期病院に3年勤務後、回復期リハ病院へ転職。コロナ派遣や施設勤務、精神科慢性期での勤務などを経て、応援ナースとして精神科急性期病院へ。半年間の赴任後、同院から夜勤専従としての継続を依頼され、現在は正社員として勤務しながら他施設でのアルバイトも掛け持ちしている。
病院の人手不足などを数か月単位の期間限定で補う働き方の通称です。「応援ナース」は特定の派遣会社の商標のため、「応援看護師」「都市圏応援ナース」「首都圏応援ナース」、英語表記の「トラベルナース」など呼び方は会社や病院によって異なり、条件も呼び方ごとに細部が違うことがあります。
「給料に惹かれて」「経験を積みたくて」。応援ナースを始めたきっかけは対照的だった
カナコさん(以降カナコ):前の病院を辞めるタイミングに、X(旧Twitter)で「コロナ関連の仕事で高単価の求人が出ている」とDMをくれた看護師さんがいて。こういう働き方があるんだと、そこで初めて知りました。その方から派遣会社をいくつか紹介してもらって、まだ前の病院を辞める前に、まずは最初に紹介してもらった会社に登録してみたのが始まりです。
アイさん(以降アイ):私の場合は、給与の高さがきっかけです。精神科の慢性期病院で紹介予定派遣として半年勤務していて、その契約期限が近づいていた時期で、基本給40万円、夜勤手当1回2万円、夜勤専従で休日120日以上という条件を見て、すごく惹かれました。
カナコ:わかります。私も県外に出る分、条件にはこだわりました。提示されていたのは夜勤10回分を含んだ給与だったんですが、夜勤専従だと日勤の手当などは入らない分、急変が起きて残業になることも考えて、「総支給で50万円以上は欲しい」とはっきり伝えましたね。
アイ:ただ私の場合、最終的な決め手は給与だけじゃなかったです。「精神科急性期病棟に確実に入れること」が確約されていた点が大きくて。精神科慢性期の経験はあっても急性期は未経験だったので、その挑戦ができるほうが、私にとっては重要でした。給料だけ良くて配属先が選べない求人だったら、たぶん選ばなかったと思います。
カナコ:そこは私も同じです。施設形態は「急性期であること」が絶対条件でした。未経験の領域だと、さすがに厳しいので。
都市型応援ナース、最初の1週間で直面した“リアル”
――新しい病院に入って、最初の数日はどうでしたか?
カナコ:想像以上に、人手が足りていない現場でした。最初の3〜4日だけ日勤の慣らし期間があって、その後はすぐに夜勤専従として2人体制の夜勤に入ります。最初の月は3日間の日勤のあとに7回の夜勤があり、6回目くらいでようやく物品や急変対応が一通り回せるようになりました。それでも、緊急入院が来たときにどの番号にピッチをかければいいかとか、先生ごとの対応のように細かいところは、1か月経たないとまだ厳しかったです。
アイ:私も似たような感じで、3〜4日の日勤を終えたらもう夜勤は基本独り立ちでした。それより緊張したのは、すでに出来上がっている人間関係に入っていくことで。配属先は紙カルテで、カーデックスの書き方も学生時代以来。応援ナースだから即戦力にならなきゃ、というプレッシャーもありました。
カナコ:人間関係もそうですけど、私はまず物品の違いに苦労しましたね。セットの内容、リネンの扱い方、おむつの処理方法まで病院によって全然違って。古い病院だとコストの関係で「おむつは新聞紙で」というところもあって、最初は意味がわからず戸惑いました。
アイ:それはありそうですね。私の場合は、それよりも人間関係の見極めの方が大変で。最初の数日で、誰がいわゆる「お局」的な立場か、病棟内にどんな派閥があるのかを見極めるのに必死でした。優しそうに見えて実は抜けている人もいるし、役職がついていても異動してきたばかりで実は周りに受け入れられていない人もいたりして。クラークさんや看護助手さんとリネンの整理をしながら、「副師長さんって、いつからこの病棟にいらっしゃるんですか?」って、知らないふりしてさりげなく聞いたりしていました。
カナコ:処世術ですね(笑)。私が一番大変だったのは、疾患や医療機器そのものより、その病棟特有の”空気感”がつかめないことでした。応援ナースだからといって”お客様扱い”してもらえるわけではないので、些細なことまで自分から覚えていく姿勢が必要で。配属された病棟は内科系という診療科の特性もあって、院内での立ち位置がやや弱く見られがちな診療科でした。だからこそ、なるべく明るく前向きに振る舞うことを意識していました。
アイ:精神科急性期ならではの大変さもありました。それまでの慢性期は症状が安定した患者さんが中心だったんですが、急性期は不安定な患者さんも多く、興奮した患者さんによる暴力行為に直面することも。統合失調症の患者さんが幻覚や妄想からスタッフに手を上げる場面を初めて目にしたときは、教科書の知識と現実の重みの違いを実感しました。
――暮らし方の面でも、都市型らしい違いがありましたか?
カナコ:ありました。私は大阪から愛知へ引っ越して、マンスリーマンションを利用しました。光熱費・生活費は自己負担で、往路の交通費だけ会社持ち、帰りは自分で。車がないと大変な場所でしたが、コンビニやスーパーは歩いて行ける範囲にあって、生活に大きな差がない場所を選びました。応援ナースを転々とする人は、片道切符でキャリーケースひとつを引いて、次の赴任先に直接移動していくみたいですよ。
アイ:私は引っ越しはせず、横浜の自宅から通える東京・神奈川エリアの求人だけを探しました。引っ越しをしない分の月給上乗せみたいな話は特になかったです。住居の条件が寮しかなかったので。
半年間で見えてきた変化。仕事への向き合い方と「外部の立場」だからこその発見
――半年間を通して、仕事への向き合い方に変化はありましたか?
カナコ:お金のために始めた応援ナースでしたが、高い給与で働いてみて気づいたのは「納得できる給与をもらえれば、たいていのことは笑顔でこなせる」ということでした。理不尽なことや医療安全に関わることは別ですが、業務量への不満は給与への納得感でかなり吸収できるんだなと。それでも文句が出るとしたら、給与より「やりがい」を大事にするタイプなんだろうなとも思います。終わりが決まっている仕事の強さも実感しました。
アイ:私が一番強く感じたのは、給与より「誰と働くか」が大切ということでした。実は、1週間ほどで契約を終えた病院があったんです。応援ナースとして別の精神科病院(100床ほどの規模)で働く予定だったんですが、面接で聞いていた条件と、実際の労働条件通知書の内容がかなり違っていて。初日に先輩について教えてもらうだけで、本来つくはずの夜勤手当が半額になっていたり。職場の雰囲気もかなりひどかったので、派遣会社に相談して、契約から1週間ほどで解除させてもらいました。
カナコ:病院に直接じゃなく、派遣会社を通すのが正解ですよね。正直、応援先によってはかなり厳しい環境のところもあると思います。私の場合は契約条件のトラブルではなかったですが、別の意味で大変だったことがあって。正規スタッフの間に高い給与への反発のような空気を感じたことがあったんです。看護部長から「現場を一時的に良くするために高い給与で来てもらっている。納得してほしい」とスタッフに説明されたと聞いたこともあります。だから給与額は同僚に明かさない、夜勤のたびにお菓子を差し入れする、おむつ交換は率先して引き受けるなど、自分なりに信頼を積む工夫をしていました。
アイ:一方で、今働いている病院は業務の愚痴はあっても人に対する悪口がほとんど出てこなくて。それだけで働きやすさが全く違いましたし、職場の雰囲気が悪いと、患者さんもそれを察して影響を受けると思います。
あと、応援ナースという働き方自体への向き不向きも感じました。短期間で集中して新しい環境に挑戦するスタイルは、自分にすごく向いていたと感じています。逆に、一定以上のコミュニケーション能力がないと、出来上がった人間関係に飛び込むのは厳しいかもしれません。
カナコ:人間関係でいうと、私は意外な発見もありました。常勤の中途入職だと、同期にあたる若いスタッフとはなかなか同じ感覚で話せないことが多いんですが、応援ナースという立場だと、外の情報を知りたいZ世代のスタッフの方から気軽に話しかけてくれるんです。夜勤明けに一緒にご飯に行ったりして、今でも連絡を取っている人もいます。
アイ:給与面では複雑な気持ちもあります。同じ職場で正社員になった際、同じ業務なのに月10万円前後給与が下がった感覚があって。今はその差に近づけるように、アルバイトを掛け持ちしています。
応援ナースを終えて。それぞれが選んだ、まったく違う「その後」
――応援ナースが終わったあと、今の働き方を選んだ理由を教えてください。
アイ:期間が終わるタイミングで課長さんから「このまま夜勤専従として残ってくれない?」と声をかけていただいたんです。職場の人間関係も良かったし、次に明確にやりたいことが決まっていたわけでもなかったので、そのまま正社員として働く道を選びました。
カナコ:私は逆でした。応援ナースの経験を通じて、自分のやりたい方向性がよりはっきりしたタイプです。専門学校卒という経歴に学歴的なコンプレックスがあって、1年目が終わった頃からそれを解消する方法を考えていたんです。2年目の半ばには「がん専門看護師を取るか、血液内科で働きながら専門を取るか」というところまで具体的に考え始めていました。応援先の病棟に血液内科があったものの超急性期で化学療法(ケモ)までが中心だったので、もっと深めたい気持ちが強くなって。
資格取得には経験年数や病院からの推薦も必要なので、次は常勤で血液内科のある病院に移ることを決めました。ストレートで常勤を続けてきた人と違ってキャリアを遠回りしてきた分、自分の力で学び直せることを証明したい気持ちもあって。学費は病院が出してくれても生活費までは出ないことが多いので、応援ナースの給与はその間の生活費に充てています。
アイ:私は逆に、最終目標を決めて積み上げていくタイプというより、興味のある領域にとりあえず飛び込んでみるタイプなんだと、自分の傾向がはっきり見えてきました。病院や施設はもう経験しているので、まだ経験のないクリニックなど別の領域も試してみたいと思っていて、まだ「ここに腰を据える」という最終的な着地点は決めていません。いろんな人の話を聞くのと、実際に働いてみるのはやっぱり違うので、自分の肌感に合うものを探しながら、長く続けられる場所を見つけたいです。
カナコ:若いうちはそれができますよね。私は転職活動で年齢の壁を強く感じています。20代なら「いろいろ経験して、自分に合う場所を見つけたい」という語り口が前向きに受け取られますが、40代になると同じ経歴でも見え方が違って。看護部の面接や見学では好評価でも、書類が人事に届いた2〜3時間後に「次のところで頑張ってください」という不採用の連絡が来ることも珍しくないんです。
今後働ける期間が限られている分、ゆっくり合う場所を探している余裕もないので、自分のやりたいことと自分の性質に合う病院をピンポイントで見つけて応募するようにしています。家庭の事情をさりげなく聞かれることもありましたし、常勤看護師の採用はどこも難しいと言われる一方で、派遣サイトでは一つの求人に何人も応募が集まっている。だからこそ、自分が何をやりたいのか、どうキャリアを積みたいのかという軸を持っておくことが、これまで以上に大事だと思います。
アイ:私も転職理由はよく聞かれます。マイナスに見えないように、自分が何に興味があったのかを話せるよう意識しています。
都市型応援ナースに興味があるけれど、将来が不安という人へ
――最後に、都市型応援ナースに興味があるけれど将来が不安、という看護師さんへメッセージをお願いします。
アイ:応援ナースは給与の面が注目されがちですが、それ以上に得られる経験の大きさを実感しました。新しい領域に挑戦できたこと自体が大きな収穫です。迷っているなら、一度飛び込んでみるのもいいと思います。今の病棟が新体制を始めたところなので、それが落ち着いたらまた転職を考えていて、応援ナースも選択肢のひとつとして残しています。
カナコ:私からは地方に住んでいる看護師さんへ。都市型応援ナースは「お試しで都会に住める」働き方です。自分のお金を使わずに、憧れていた都心での暮らしを経験できます。夜勤専従なら多くても月10回ほどなので、その間に転職活動を進めることも可能です。家庭の事情がなく自由に動ける若い方には、すごくおすすめできる働き方です。
アイ:ただ、お金だけじゃなく、というのもありますよね。
カナコ:そうですね。ひとつだけ気をつけてほしいのは、この高給与を一度知ってしまうと、生半可な気持ちでは常勤に戻りにくくなるということ。これがやりたい、と腹をくくれるものがあれば踏み出せますが、なんとなくで戻ろうとすると、その給与を見た後だと厳しいと思います。だからこそ、自分が何を積み上げていきたいか軸を持っておくことをおすすめします。一度の人生なので、若いうちにやりたいことに思い切って挑戦してほしいです。
アイ:本当に、いい経験になりました。
――応援ナースという同じ制度でも、選んだ理由も得たものも、その後の道もまったく違った2人。それでも共通していたのは、「半年間という期限があったからこそ、思い切って挑戦できた」という感覚でした。都市型応援ナースを考えている方にとって、今回の2人の経験が、自分らしい働き方を考えるヒントになれば幸いです。
看護師兼ライター。小児科や整形外科病棟で10年以上勤務。転職の合間に派遣でクリニックやツアーナース、健診、保育園などさまざまな場所での看護経験もあり。現在は非常勤として整形外科病棟で働きながらライターとして活動して5年以上経つ。
Nurse Life Mix 編集部です。「ライフスタイル」「キャリア」「ファッション」「勉強」「豆知識」など、ナースの人生をとりまくさまざまなトピックスをミックスさせて、今と未来がもっと楽しくなる情報を発信します。
