きっかけは、あの日のかき氷。|看護師の夜勤明けの一食のはなし
公開:2025.07.01

長い夜勤を終え、スクラブを脱ぎ、疲れた足を引きずりながら帰路につく。疲れを癒すのは、夜勤明けの一食「明け飯」。
「明け飯」には、単なる空腹を満たす以上の意味があるのかもしれません。
安堵感、達成感、時には寂しさや切なさ。様々な感情が交錯する、特別な時間。
特集「明け飯のはなし」では、看護師の皆さんの心に刻まれた「夜勤明けのご飯」にまつわるエピソードをお届けします。
第8回は、 大阪で回復期リハビリテーション病棟の看護師として勤務する40代・ネジさんのエピソードです。
きっかけは、あの日のかき氷。
10年ほど看護師として働いた後に転職した1年目、私は不安と緊張でいっぱいでした。年齢も経歴も異なる同期たちのなかで、果たして馴染めるのだろうか、やっていけるのだろうかと…。
そんな私の初めての夜勤明けごはんは、今でも鮮明に覚えています。
3交代制の勤務で、日勤を終えて一度帰宅し、深夜0時前に再び出勤する慌ただしさのなか、緊張で胃が痛くなりそうでした。仮眠中に起きられるか、深夜勤務を乗り切れるか、あまり一緒に仕事をしたことのない先輩との夜勤で上手くやれるか……。不安は尽きませんでした。
いざ職場に行って仕事が始まると、怖いと噂されていた先輩から「この深夜が終わったらかき氷を食べに行こう」と誘われたのです。正直「深夜明けにかき氷?」と戸惑いましたが、持ち前の好奇心からふたつ返事で承諾しました。
そして、無事に深夜勤務を終え、先輩と当時流行り始めていた台湾かき氷を食べに。

寝不足で顔も指先も真っ青になりながら食べたかき氷は、不思議と美味しく感じられました。疲れ切っていたにもかかわらず会話も弾み、先輩と仲良くなるきっかけとなったのです。
それ以来、明け飯は私の楽しみになりました。同期や先輩、新人、さらには自分が異動した先で話してみたい人を誘って食事をするようになりました。時には準夜明けの午前2時過ぎに、かすうどんやラーメンという背徳的な食事を楽しむことも。どの食事も美味しく、心に残る思い出となっています。
昨年、前の病院を退職し、別の病院に移りました。ここでも周囲のスタッフに馴染むため、明け飯の習慣を続けています。1年間でほぼ全てのスタッフと同じ釜の飯、同じ窯のパンを食べました。この習慣のおかげで、私から周りのスタッフにも話しかけやすくなり、また話しかけてもらいやすくなったと感じています。
先日、何度誘ってもフラれ続けていた後輩スタッフが、初めて一緒に明け飯を食べてくれました。不穏な患者さんの多い病棟で同じ苦労をした後輩との食事は話が弾み、帰り際に「今までの先輩方とご飯を食べる機会がなかったので、初めて先輩と長く話ができました」と言われたとき、彼女の姿に昔の自分を重ね合わせました。

明け飯は、私にとって単なる食事以上の意味を持ちます。それは人間関係を築く手段であり、疲れた心と体を癒す儀式でもあるのです。私のモーニング好きは病棟中に知れ渡り、どうやら「モーニング狂」と呼ばれているようです(笑)。
勤務が終わった後にふらついて出会った店に入ったり、雑誌などから情報を仕入れたりして、お店コレクションは増える一方です。

編集:白石弓夏
イラスト:こんどうしず
Nurse Life Mix 編集部です。「ライフスタイル」「キャリア」「ファッション」「勉強」「豆知識」など、ナースの人生をとりまくさまざまなトピックスをミックスさせて、今と未来がもっと楽しくなる情報を発信します。