#06 論文の世界への旅は、どこから巡る?
公開:2023.12.21
今回のテーマは、「論文の世界への旅は、どこから巡る?」についてご紹介!
これまでの連載で、少し論文を読んでみよう!と思った人が少しでもいれば幸いです。
たとえば、バーンアウトぎみの同僚をみて、手っ取り早くエビデンスに基づいたバーンアウトの改善方法を学びたい!と思ったとします。英語の論文が良いと前回学んだので、「burnout nurse」と検索しました。そうすると様々な論文がみつかると思います。でも、どの論文から読めばいいのでしょう?
「手当たり次第」では、ヘトヘトに。
「手当たり次第、とにかく読もう!」と、学んだ方法をもとに英語を頑張って翻訳しながら読んだとします。そこにはたくさんの専門用語や、前提の説明がなく理解しにくい文章が並び、たぶんヘトヘトになってしまうでしょう。さらに、論文を読める先輩に相談したら、「一本じゃ何も分からないよ、いくつか読んで吟味しないと!」と言われました。正直、一本読んでお腹いっぱいなのにもう読めないよ!と思うことでしょう。
では、どんな順番で読めば良いのでしょう。
「エビデンスレベル」の高い論文を優先してみよう。
論文には、研究の信頼性や質を示す指標として「エビデンスレベル」というものがあります。これを知っておくことで、読むべき論文を選ぶときの参考になるかもしれません。
①レベル1(信頼性★★★★★): システマティックレビュー/メタ解析
ある病気や治療法に関する臨床試験の論文を集め、その内容をまとめて評価したものです。このように複数の論文をまとめたものをシステマティックレビューと呼びます。まとめ方は適当にするのではなく、チェック項目やフローシートに作成し、方法を公開されているwebサイトに登録する必要があります。つまり厳密な過程を持って作成されているため、大きな間違いはなく、真実に近い情報を手に入れることができます。
またメタ解析は複数の試験のデータを統計学の手法を用いて統合して解析したものです。該当する研究内容が複数に行われている場合に実施されます。テーマによっては該当論文がすくなく、実施されない場合もあります。
②レベル2(信頼性★★★★):1つ以上のランダム化比較試験
患者をランダムにグループ分けして治療法の効果を比較する試験です。簡単に言えば「痩せ薬」と「ニセ痩せ薬」を参加者に効果を説明せずに(もしくはどちらにも痩せ薬と説明して)、飲んで頂き、効果がでるかを比較するものです。薬のプラセボの効果を除去できるため、正確な効果を知ることができます。ただ良く分からない薬を飲むのは怖いですよね?また倫理的問題をクリアするためにも、超えるハードルは多くあります。またランニングと筋トレとどっちが痩せる?など明らかに実施内容が異なる試験をランダムに比較することはできません(参加者が何をされているか明らかなため)。エビデンスレベルが高いですが、実施検討が非常に難しい試験です。
③レベル3(信頼性★★★): 非ランダム化比較試験
ランダム化の手法を採用しないで治療法の効果を比較する試験。上記のように筋トレvsランニングなどは被験者自身が何を介入されているか分かるものです。ランダム化されていないので、バイアスが隠れている可能性もあります。
④レベル4(信頼性★★): 記述研究[症例報告やケース・シリーズ]による
患者の経過を記述して報告する研究や、特定の治療経過や結果をまとめて報告する研究などです。症例検討を病院でやったことがある人もいると思います。
⑤レベル5(信頼性★): 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見
良い論文を選ぶ際には、エビデンスレベルが高いものを優先的に選ぶことが推奨されます。もちろんですが、エビデンスレベルが低いから「エビデンスがない!」というわけではありません。あくまでも程度がどのくらいかという話です。
「レビュー論文」はその分野の観光マップになる。
英語の論文を読むことは、初めての外国旅行に似ています。目の前には新しい情報や知識が広がっているものの、言葉の壁や文化の違いに戸惑うことも多いでしょう。そんな時、最初に訪れるべきは観光スポットを示しているのが「レビュー論文」です。レビュー論文は、特定のテーマやトピックに関する研究の成果をまとめたものです。一つだけの研究では研究者のバイアスが入ってしまう可能性もあるため第三者がたくさんの研究を集めて、バイアスの評価をして結果をまとめるので信頼性が高くなります。複数の研究結果を集約し、その分野の現状やトレンドを解説しています。まるで観光ガイドブックのように、その分野の「見どころ」を教えてくれるのです。あまり論文を読んだことがない、教科書でその分野を学んだことがあるといった人はまずはレビュー論文から読んでみましょう。また少しでも知識がある分野の方が知識ゼロよりも読みやすいと思うので、ぜひ自身の得意、好き!としている領域の論文から読んでみましょう。
まとめ
英語の論文に挑戦する看護師の皆さん、最初の一歩は自身の好きな分野のレビュー論文から!その分野の「観光マップ」を手に取るように、レビュー論文を読むことで、英語論文の世界への旅がより楽しく、有意義になるでしょう。安心して、その第一歩を踏み出してみてください。
次の記事「インパクトファクターで良質な論文を見定めよう」もお楽しみに!
イラスト:YUI
集中治療領域で看護師として働きながら、博士課程修了(救急・集中治療医学専攻)。Youtube/Instagram/TikTokで教育コンテンツを配信中。
クラウドファンディングで作成した著書は達成率1458%(1,458,600円)となり看護学部門でAmazonベストセラーランキング1位を獲得。
研究者としても多くの英論文を発表している。