#10 論文=絵画!?読解テクニックを知って楽しく鑑賞しよう
公開:2024.03.20
今回のテーマは、絵画鑑賞のように論文を楽しく読解するコツについて。
たとえば、有名な絵画 「真珠の耳飾りの少女」や 「モナリザ」を前にしたとき、みなさんはどのようなことを思いますか?
「綺麗な絵だなぁ」とか「この表情どういう感情なのかなぁ?」とか「真珠の耳飾りに何か意味はあるのか?真珠じゃなくてもいいじゃん!」など、様々なことを思いますよね。
実はこの時、絵の全体像でなく、表情や背景や耳飾りなどの絵の細部に皆さんの視点は止まっています。
論文を読むときもこれと同じことが重要です。
今回は、論文を楽しく読解するために大切なテクニックをご紹介します。
論文は、もっと自由に読もう
論文を読む際の大きな誤解は、初めから最後まで読み切らねばならないという思い込みです。
それは論文を読むことを強制されている時の読み方であり、たとえば、査読と呼ばれる審査の場合は初めから最後まで読む必要があります。
しかし、あなたは強要されていないはずです。もっと自由に楽しんで大丈夫です。
絵画を上から順に眺めていかなければいけないと言われたら、誰が楽しんで鑑賞できるでしょうか?それはやはり芸術鑑賞ではなく、検査作業になっており、苦痛に感じると共に、辛い思いをするだけかもしれません。
論文を読むことは検査作業ではありません。芸術鑑賞です。
論文を読むときにはもっと自由に読んで良いのです。そして、ある法則を理解しているともっと楽しく論文を読むことができます。実は論文は絵画と同じように、基本の書き方が決まっているのです。
今回は法則の特徴から、シーンやお悩み別に合わせた読解テクニックをお伝えしたいと思います。
1.とにかく絶対見るべき部分:「アブストラクト(抄録)
ここは絵画や映画でいうところの、解説、あらすじに近いところです。絵画や映画でもまず、これは見ますよね。ここを読むことで、大まかな全体像を短時間で掴むことができます。この点から、まず読むべき場所と言えます。
2. テーマとなる分野の現状が掴めていない :「背景」を読みましょう。
背景には、その研究がなぜ行われたのか、どのような問題点があったのか、またその分野でこれまでにどのような研究が行われてきたのかといった情報が記載されています。
これを読むことで、研究者たちは現在どのような問題に取り組んでいるのかという全体像を知ることができます。つまり、この分野の研究には詳しくないけど、とりあえず現状を知りたいというときにとても役立ちます。
3.同じテーマの研究を考えている:迷わず「方法」から読みましょう。
特定のテーマについて新しく自分で研究を考えている時、その研究がどのように行われているのか、どんな手法や実験、アプローチが使われているのかを知るために、方法のセクションから読み始めるのが最適です。
「方法」セクションは、研究のレシピのようなもの。ここには、研究者がどのような材料を使い、どのような手順で実験や調査を行ったのかが詳細に記されています。この情報を手に入れることで、その研究がどのように行われたのかを具体的に理解し、もしあなたが同じテーマで研究を行うとしたらどのような方法を取るべきか、どんな準備が必要か、どのような困難が予想されるかなどをイメージすることができます。
4.まずは結果を知りたい時 : (方法と照らし合わせながら)「結果」から読みましょう。
特定のテーマに関して、研究がどのような結論に至ったのか、どんなデータが得られたのか、その意味は何なのかを知りたい時「結果」から読むのが近道です。
結果では、研究者が実験や調査を通じて得た具体的なデータや観察が記されています。これは、著者の解釈や意見が加わる前の、客観的な情報の集まりです。なので、この部分を読むときは、自分でデータを見て、何が起こったのか、それがどういう意味を持つのかを自分自身で解釈していく必要があります。
例えば、あなたが新しい看護ケアの効果についての研究結果を読んでいるとしましょう。そこでは、どのような患者に効果があったのか、副作用は何か、改善された症状は具体的にどのようなものかなどが示されているはずです。この情報は、看護ケアが実際に患者にどのように作用するかを理解するための重要な手がかりとなります。
結果を読むことは、研究で最も示したい客観的データを確認し、それがどのような意味を示しているか考えるプロセスです。そして、そのデータから自分自身で意味を読み取ることで、より深い洞察や新しい疑問を見つけ出すことができるのです。
5.結果をどう解釈していいかわからない時:「考察」を読みましょう。
でも結局結果を読んでもわからない!そういう時のために「考察」があります。
考察では、研究者が得た結果をどのように理解しているか、またそれが既存の知識や他研究とどのように関連しているのかが説明されています。このセクションを読むことで、単なるデータや数値が何を示しているのかを超え、なぜそれが重要なのか、またその研究が将来の研究や実際の問題解決にどのように役立つかを理解することができます。
例えば、看護ケアに関する研究結果を読んだとき、その数値やデータの意味がすぐには理解できない場合があります。考察セクションを読むことで、これらの結果が過去の看護ケアや他の研究で行われた看護ケアとどのような違いがあるのかが明らかになり、結果の意味がより明確になります。
しかし、考察セクションを読む際には注意が必要です。研究者は自らの結果を支持するために、都合のいいデータや論文を選んで引用することがあります。そのため、考察で提示される解釈を一つの視点として捉え、可能であれば他の資料や研究と比較しながら読むことが重要です。
まとめ
論文を読むことは、本来楽しいものです(強制されていない限り)。きっとこの考えは理解できないと思う方が多いかもしれません。しかしそれは、自分は読まないのに、小説を読む人から「小説は楽しいよ!」、漫画を読む人から 「漫画は楽しいよ!」と言われているのと一緒で、まだ本当の楽しみ方を 体験できていないだけだと思います。小説も、漫画も文学や芸術の一つとしてハマると楽しいですよね。
論文はタイトルで述べているように絵画のような芸術の一部だと捉えていますが、1点特徴的なことは、全てが事実で述べられているところです。事実で作られた芸術を楽しめるようになった時、あなたの世界はきっと広がります。引き続き、この連載で解説していきますので、科学と芸術の融合とも思える論文を一緒に楽しんでいきましょう。
イラスト:YUI
集中治療領域で看護師として働きながら、博士課程修了(救急・集中治療医学専攻)。Youtube/Instagram/TikTokで教育コンテンツを配信中。
クラウドファンディングで作成した著書は達成率1458%(1,458,600円)となり看護学部門でAmazonベストセラーランキング1位を獲得。
研究者としても多くの英論文を発表している。