後輩が育つための「支え方」について、本読んで考えた。

公開:2025.12.29

本好きの現役ナースたちが集まるプロジェクト「#看護師さんと本屋さん」のメンバーが、本を読んで考えたアレコレについて共有するコラム「本読んで考えた。」看護の現場での体験や、本を読んで気づいたことなどをリレー形式でご紹介していきます。

今回は、「後輩が育つための『支え方』」をテーマに、看護師のおともさんが考えたことをお届けします。
<今回の「考えた」ひと>
看護師のおとも
救急外来で臨床を、主任として管理を、シミュレーションで教育を三本柱で実践中。本好きが高じて #看護師さんと本屋さん 企画副代表。今も昔も自室の本が多く、部屋は本棚だらけ。でも隙あらば本屋に寄っていきます。

“どう教えるか”に悩むすべての人へ

後輩を教育していると、「こう伝えるとうまくいくな」「この順番だと理解してもらいやすいな」と手応えを感じることがあります。しかし、その理由をうまく言語化できずにいました。

そんな中で出会ったのが、今回紹介する書籍 『看護師・医師を育てる経験学習支援──認知的徒弟制による6ステップアプローチ』 でした。自分にとって大きな発見だったのは、本の中で紹介される「認知的徒弟制」という考え方です。

聞き慣れない言葉ですが、これは多くの方に役立つ理論だと思います。自分が「なんとなくこういう方法がうまくいく」と思っていた内容が、すでに理論として確立した手法であったことを知ったときの衝撃は凄まじいものでした。その感覚をぜひ共有できたら幸いです。

手探りの指導が、“理論”として腑に落ちた

さて、この『認知的徒弟制』とはなんぞやというところから話をしましょう。

これは、経験豊富な人が経験の浅い人を支えながら、少しずつ自立へ導いていく教育法のことです。

認知的徒弟制の「認知」とは「人間が物事を知覚・判断・理解・解釈する認知力を高める」ことに焦点を当てており、「徒弟制」は、職場において「経験豊富なメンバーが経験の浅いメンバーを指導する」ことを意味しています。

つまり、先輩がどんな支援をし、どんなタイミングで手を離すのか――そのプロセスを言語化したものだと言えます。

  1. モデル提示(やっているところ見せる)
  2. 観察と助言(仕事をさせてアドバイスする)
  3. 足場づくり(独り立ちのために徐々に支援を少なくする)
  4. 言語化サポート(考えていることを言葉にできるように促す)
  5. 内省サポート(振り返らせて自分の強みや弱みを理解させる)
  6. 挑戦サポート(学習者が独力で新しい問題を解決できるよう促す)

経験学習やリフレクションといった手法は、看護の教育現場では比較的にメジャーになってきています。認知的徒弟制はそれらをさらに具体的に、段階的に、現場へ落とし込む助けになってくれます。

振り返ってみると特に⑤〜⑥の段階は、意識して関わらなければ到達しにくいと感じています。

後輩が“育つ瞬間”に立ち会う

救急医療の現場で働いていると、明確にスタッフが育っていく瞬間に何度も立ち会うことがあります。特に印象的だったのは、ある救急医と研修医の関わりです。

その研修医は最初、上級医の手技を間近で観察し、ときに質問をしながらメモを取っていました。次に見たときには、研修医が主体となって準備や手技を行い、それを上級医がピッタリとサポートしていました。何度か繰り返しているうちに、いつしか上級医は研修医を遠くから見守るだけになりました。手技の後にどうすればより良くなるのか、次はどのような症例にどんなアプローチで望むのかをディスカッションしていました。

今ではその研修医は、緊急症例でも一人で立ち向かえるだけの力量をつけています。当時、まさにこの本を読み進めているところだったので「今は足場づくりしているんだな」「もう内省サポートの段階になったのか」と勝手に合点していました。この研修医の育て方こそ、まさに認知的徒弟制による教育手法だと感じました。

本で読んでいた理論によって育成が進む過程を客観的に見られたのは貴重な体験だったと思います。

看護教育に“段階”の視点を取り入れる

看護の世界では、プリセプターやPNSなど、さまざまな教育体制がとられます。学習者のサポートを行うときに「今はどの段階で、どの程度の支援が必要なのか」を明確にすることで、より効果的な教育を行うことができるでしょう。マンツーマンで教える機会が生まれたら、ぜひこの教育手法で関わってみたいと考えています。

この1ページだけでも、読む価値がある

本書には、認知的徒弟制の6ステップに沿って学習者が指導者を評価できる質問項目が掲載されています。

どの段階でどんな支援が行われたかを細かく振り返ることができ、指導者にとって非常に貴重な内容です。ぜひ見てみてほしい1ページです。このページのためだけに買う価値のある一冊だと感じています。私は同じ内容をパソコンにデータとして入れていて、折に触れて確認するようにしています。

“人が育つ”ことの尊さ

もちろんさまざまな教育スタイルや関係性、学習者の特性があるので、なにがうまくいくのかがわからない試行錯誤の日々です。教育はうまくいかないこともありますし、うまくいったという手応えも感じることが難しいものです。

うまくいったと感じられたとしても非常に時間がかかることも珍しくありません。そんな日々だからこそ、「人が育っていく」瞬間というのものを目の当たりにしたり、そのサポートができるというのは非常に尊く感じるのです。

▼紹介した本
看護師・医師を育てる経験学習支援 認知的徒弟制による6ステップアプローチ」
松尾 睦 / 築部 卓郎【著】(医学書院)

文:看護師のおとも
編集:白石弓夏
Nurse Life Mix 編集部 Nurse Life Mix 編集部

Nurse Life Mix 編集部です。「ライフスタイル」「キャリア」「ファッション」「勉強」「豆知識」など、ナースの人生をとりまくさまざまなトピックスをミックスさせて、今と未来がもっと楽しくなる情報を発信します。

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