#04 なほこの場合

公開:2023.12.29

あの日わたしが見たナース
わたしたち(患者&その家族)には、あの時に出会った看護師の方に言えなかったありがとうがある。

その方自身にとっては当たり前のことだったのかもしれないけど、わたしたちは嬉しかったり、安心したり、素敵な瞬間だった。

特集「あの日、わたしが見たナース」では、実際にあったそんなエピソードを描き、今この日々を頑張るすべての看護師の方への感謝と共に捧げます。

第4回はなほこさんが、幼稚園年中のとき、急病で緊急搬送された時に体験したエピソードです。

暗がりの廊下でナースさんと手をつないで

私は幼稚園年中のとき、急病で緊急搬送された。

記憶は曖昧だけど、テキパキと点滴をつけてくれたナースさんの白い制服が記憶にある。近くで他にも緊急搬送された人がいたが、流血した手だけが見えて、病院に来ていることを理解した。消毒のツーンとした匂いも病院にいることを実感させた。

次の日か、その次の日の記憶は、入院中のトイレ。真夜中にナースコールを押して、一緒にトイレについて行ってもらった。そのとき、左手首に点滴がついていて、移動するときに器具と一緒に動かなくてはいけないことに気がついた。どうやって動かすのか分からない私に、ナースさんが器具を持って点滴の管がまとわりつかないように動かしてくれた。無事にトイレをすましてるとき、点滴がついている左手首に鈍い痛みがあることに気がついた。そのあと、暗がりの廊下でナースさんと手を繋いで病室に戻った。

帰り道は非常口の電光灯が、宇宙空間の中で点滅している信号みたいな感じがして、ナースさんと一緒に宇宙にいて宇宙ステーションに戻ってきたのかも、と空想が膨らんだ。病室よりナースステーションの方が宇宙ステーションぽいかもな、とも思うけれど。ナースコールは、宇宙飛行士とナースステーションで働く宇宙司令部職員のナースをつなぐパイプラインで、日夜、宇宙飛行士たちの様子を見てくれている。時々、宇宙空間を一緒に旅してくれてトイレにも行ってくれる。そんな空想が病院の生活を彩った。

痛みを忘れさせてくれたカエルのキャラクター

次の日は、点滴を変える日だった。付け替えた時に、包帯の下の自分の手首を見たら真紫になっていた。

ゲッ。

ナースさんから「ちくっとしますよ」と声をかけてもらいながら、針の抜き差しをした。たぶん泣いていないはず。こういうときは泣かない。新しく点滴を刺し、新しく包帯を巻いてもらった。真っ白で気持ちいいもんだな〜と思い、診察結果を聞いてる親の横でボーっとしていた。

ナースさんがスッとマジックを出してきて、ナースさんがささっと、手首をまいている包帯に私が好きなカエルのキャラクターを描いてくれた。すごい!すごい!診察が終わって、母親に包帯を見せて自慢した。点滴の痛みはなく、点滴をみせびらかすことに一生懸命だった。

わたしの気持ちを知っていてくれた

しばらく、入院生活が続いた。あとで聞いたら1週間程度の入院だったらしいが、当時の私には1ヶ月にも感じられた。寝てることにも飽きたし、病院のご飯にも飽きた。早く家に帰りたくてたまらなかった。

時々、親戚や家族がお見舞いに来てくれるが数時間で帰ってしまう。しかも、みんなで外食に行くとか腹立たしい。私も行きたい!なんで私だけ!しばらく不貞腐れていたところ、ナースさんが病院の図書室に連れて行ってくれた。同じくらいの子たちが遊んでいたけれど、仲間に入れずひとりぼっちだった。

そんな私をナースさんは病室に戻して、白い紙とマジックを渡してくれた。夢中になって描いた。私が何が好きなのかをナースさんは知っていたんだな、と思う。

退院の日に点滴を外すことになった。カエルのキャラクターが描かれた薄汚れた包帯がスルスルなくなっていくのが、すごく寂しかった。

帰る時、ナースさんたちがバイバイしてくれて嬉しかった。

文:なほこさん
イラスト:せきやよい
せきやよい せきやよい

ストーリーを感じられる人物描写や日常に寄り添うあたたかみのあるイラストを制作。挿絵、広告、ループアニメーションからMV制作など幅広く活動。

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