#02「とうもろこし」で理解する、看護師が論文を読む必要性

公開:2023.10.10

とうもろこしで理解する看護師が論文を読む必要性
ハルジローのオンライン看護学院の連載企画「病棟研究はじめの一歩」では、看護師&医学博士&研究者ならではの視点で、看護の仕事に役立つ知識やテクニックを紹介していきます。

今回のテーマは、「論文を読む必要性」についてご紹介!

学術論文は看護師にとってなかなか手が出しにくい存在。しかし、いつかは読んでみたい!と思っている人もいるかもしれません。論文を読むことは専門的な知識や新しい視点を得るための重要な手段です。

今回は、「とうもろこし」を使った例え話を通じて、今自分が読むべき論文を考えてみましょう。

「データ」「論文」とは何か?

データとは何か? – 「とうもろこしの原種」の例え

まず、データを「とうもろこしの原種」と例えてみましょう。「とうもろこしの原種」は実はぜんぜん実がなく、そのまま食べることができません(粒が10個もない)。農家さんなどが品種改良したことでやっと今のとうもろこしのように食べられるようになりました。データも同じ用に事実や情報の最も原始的な形態です。これは、観測された現象、行われた実験、集められた統計などから得られます。データそのものは原種であり、何も品種改良されていないので、その形状や性質を正確に知ることができず、多くの人にとって理解できません。

論文とは何か? – 「生のとうもろこし」の例え

次に、論文を「生のとうもろこし」と例えてみましょう。「生のとうもろこし」は、農家が長い時間をかけて品種改良した結果、とうもろこしの原種から豊富な実をつけるようになったものです。しかし、そのままでは硬く、また独特の風味があるため、全ての人が好んで食べるわけではありません。さらに料理や調理が必要です。

同様に、論文もデータ(とうもろこしの原種)を基に、研究者が長い時間をかけて解釈し、知識を整理・体系化した結果生まれます。その結果生まれた知識(生のとうもろこし)は、豊富で詳細な情報を含んでいますが、そのままでは専門的すぎて消費するのが難しいと感じる人もいます。しかし、それをじっくりと時間をかけて読み解くことで、その深みや複雑さ、そして素材の良さが理解できます。

論文を理解しやすくしたものが「レビュー」

「生のとうもろこし」に火を通し、「焼きとうもろこし」にすることで、とうもろこしの甘みが引き立ち、そのまま食べることができるようになります。

同様に、レビューは、「生のとうもろこし」である複数の論文を「料理」することで、それぞれの論文が持っている情報を引き立て、一つの明確で理解しやすい結論(「焼きとうもろこし」)を提供します。この「焼きとうもろこし」のような結論は、そのままでは解釈が難しかった論文(「生のとうもろこし」)を「焼く」ことで、その情報が一層引き立ち、さらに美味しく(理解しやすく)なります。

このように、レビューは多くの論文を精読し、それらの情報を「焼く」(解析し、統合し)ことで、理解しやすく、「消費しやすい」形に焼き上げたものと言えるのです。

さらにわかりやすく”料理”したものが「専門書籍」や「雑誌」

「コーンポタージュスープ」はとうもろこしの旨みを引き立て、さらにクリーミーで滑らかな食感に仕上げた料理です。「焼きとうもろこし」から更に手を加え、とうもろこしを細かくして、ミルクやクリームとともに煮込むことで、豊かな味わいと滑らかな食感のスープになります。

専門書籍や雑誌も同様に、「焼きとうもろこし」であるレビューから更に手を加え、情報を分かりやすく説明し、より深く理解するための具体的な事例やアドバイスなどを加えて「コーンポタージュスープ」のように仕上げます。つまり、複雑な研究結果を分かりやすい形に整理し、具体的なアドバイスや専門知識を付け加えることで、より広い視野で理解することができます。

また、雑誌の場合、特定のテーマに焦点を当てた複数の記事が一つにまとまっているので、そのテーマに関する様々な視点からの情報を得ることができます。これは、スープの中に様々な食材が加えられていることに例えられます。

このように、看護師にとって、専門書籍や雑誌は、「とうもろこし」を更に処理して美味しく食べやすくした「コーンポタージュスープ」のような存在と言えるでしょう。研究結果を元にした知識を深く理解し、日々の実践に活かすためには、論文だけでなく、専門書籍や雑誌も大切な資源となります。

子どもから大人になるように – 探究心が生まれたら、その行き先はレビューや論文

初めて看護の世界に足を踏み入れた新人看護師は、まるで子供が初めてとうもろこしに触れるようなものです。彼らはまだ「生のとうもろこし」、つまり学術論文の読解には慣れておらず、学術的な知識を得る手段として専門書籍やレビューを活用します。これらは、とうもろこしを焼いたり、コーンポタージュスープにするなど、子供でも食べやすい形に加工されているといえます。

しかし、経験を積むにつれて、新人看護師は「大人」へと成長します。つまり、自分で論文を読み解く力を身につけ、学術的な知識を深める能力がついてきます。それは、大人が生のとうもろこしの風味を理解し、それを好むようになるのと同じです。

そして、中にはさらにステップアップし、「農家」になりたいと考える人もいるでしょう。つまり、自分で研究を行い、新たな知識を生み出して世界に発信したいと考える人です。それは、とうもろこしをただ食べるだけでなく、自分で育て、新たな品種を作り出す農家に例えられます。 しかし、いきなり生のとうもろこしを食べることは難しいです。それは、看護師として一瞬で研究者になることが難しいのと同じです。少しずつ、焼きとうもろこしやコーンポタージュスープから始め、徐々に生のとうもろこしに挑戦することが大切です。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

学問の世界は深く広く、一歩ずつ進んでいくと自分の興味が引かれる特定の分野が見つかるはずです。私の経験もその一例で、看護師としてのキャリアの途中で成人ICUから小児ICUへと舞台を移しました。

初めの頃は、分野について理解を深めるために書籍や雑誌を読むことから始めました。その知識が少しずつ積み重なることで、私自身もその一部となり、より深いレベルでの理解を求めるようになりました。それが、私が最終的に学術論文を直接読むようになり、さらには英語での論文執筆に至るきっかけとなりました。

あなた方も、特に興味を持った分野が見つかったら、書籍や雑誌だけでなく、レビューなどの学術論文にも挑戦してみてください。それが新たな知識を得て自身の成長を促しキャリアアップの一歩となるでしょう。

企画・監修:ハルジローのオンライン看護学院
イラスト:YUI
ハルジロー ハルジロー

集中治療領域で看護師として働きながら、博士課程修了(救急・集中治療医学専攻)。Youtube/Instagram/TikTokで教育コンテンツを配信中。
クラウドファンディングで作成した著書は達成率1458%(1,458,600円)となり看護学部門でAmazonベストセラーランキング1位を獲得。
研究者としても多くの英論文を発表している。

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