看護師からIT企業マーケターへ転職。“人の人生に寄り添う”キャリアの選び方
公開:2026.05.01
一見まったく異なるキャリアだが、軸は変わらない。
「人の人生に寄り添うこと」だ。
地域の銭湯でのコミュニティナース経験を土台に、今は社会全体の健康や暮らしに関わる新しい形を模索している。
医療の枠を超えた、そのキャリアの軌跡を追った。
「治療」ではなく「生活」を見たい。地域看護に惹かれた原点
ーー看護師を目指したきっかけを教えてください。
一番は、歯科衛生士として働いていた母の影響が大きかったと思います。医療の仕事が身近にあり、「向いているんじゃないか」と勧められたこともありました。
なので、「看護師になる」という選択は、どこか自然な流れだったように思います。
ーーそれで、看護学部のある大学に入学されるんですね。実際学び始めてみて、どうでしたか?
3年生のときに地域看護や訪問看護の授業を受けて、考えが大きく変わりました。
病院では「治療や身体の管理」が中心ですが、地域看護では社会的背景や心理面も含めて“その人の生活全体”を見ることが求められ、予防から生活に戻るまでを支える関わりが重視されます。
そのプロセスに“人生”を感じ、初めて「看護って面白い」と思えたんです。
この経験をきっかけに、将来は地域に関わる看護がしたいと考えるようになり、看護師に加えて保健師の資格も取得しました。
一方で、「せっかくなら有名な病院に行ったほうがいい」という周囲の期待もあり、ファーストキャリアは病院を選びました。
病院で感じた違和感と、「息のしやすい場所」との出会い
ーー看護師生活は、どんな日々でしたか?
看護師なら知らない人はいないと言われる有名病院に就職し、花形とも言える心臓血管外科・循環器内科に配属されました。
周囲にはスキルを磨きたい同僚が多く、成長環境としては申し分ありませんでした。
ただ、働くうちに徐々に違和感を抱くようになりました。
「私は地域に関わることがしたいのに、なぜここにいるのだろう」と。やりたいことが見えている一方で、今いる環境とのギャップや周囲との温度差に、少しずつ苦しさを感じるようになっていきました。
次第に気持ちのコントロールが難しくなり、仕事中に涙が出てしまうこともありました。そうした状態が積み重なり、最終的には退職することになりました。
ーーその違和感は、どのように解消されたのでしょうか?
転機になったのは、高円寺にある「小杉湯」という銭湯との出会いです。
そこで関わる人たちと話したとき、「なんて息のしやすい場所なんだろう」と心から感じました。
当時の私は、1年足らずで病院を辞めてしまったことに引け目を感じていて、気持ちも落ち込みがちでした。
「激務の病院では、みんな辛いのは当たり前。私だけ休んではいけないし、愚痴も言ってはいけない」
そんなふうに思い込んでいた私にとって、小杉湯は弱さを見せてもいい場所であり、初めて自分らしくいられる場所でした。
ナースとしてではなく、一人の人間としてそこにいていいと思えたことに、大きな安心を感じたんです。
銭湯専属のコミュニティナースとして
ーーふじはるさんにとって、小杉湯のどんなところが特別だと思いますか?
在宅治療を行う先生が「小杉湯は社会的処方だ」と話していたのが印象的でした。
「人は薬になる。人と人とのつながりが健康にとって大事」という考え方です。
実際に、小杉湯には多世代の地域住民が集まり、高齢の方も多くいらっしゃいます。
ここは、自分がやりたいこと、大切にしたいことと重なる場所だと感じ、関わることを決めました。
より地域に深く関わりたいと考え、高円寺での暮らしも視野に入れながら、杉並区の地域包括支援センターで保健師として働く道を選びました。
その中で、小杉湯でのコミュニティナース活動とあわせて、フォーマル・インフォーマル両方の立場から人の生活に伴走できる実感を得ました。
ーー小杉湯ではどのような活動をされていたのですか?
最初は一般客として通っていたのですが、次第に常連となり、知り合いも増え、イベント企画などにも関わるようになりました。
ある日、オーナーから自然な流れで「コミュニティナース」として地域の方々に紹介されていて、「あれ、私そういう立場なんだ」と気づいた瞬間がありました(笑)。
巻き込み力のある方でしたが、不思議と嫌な感覚はなく、むしろ嬉しさのほうが大きかったですね。
ーーコミュニティナースとして印象的だった出来事はありますか?
「最近あの方を見かけないけど、大丈夫かな」
「たまにのぼせて倒れてしまう方がいるけれど、どう対応したらいいのか分からない」
そんな話をスタッフから聞き、医療者と小杉湯スタッフが気軽に話せる対話の場を企画しました。
小杉湯はあくまで「銭湯」であり、医療行為を行う場所ではありません。ですが、参加者の方から「相談できる人や場所があるとわかるだけで、安心できた」という言葉をもらい、コミュニティナースとして少しは役に立てたのかなと感じましたね。
現在は現場を離れていますが、今でも大切に思い、応援し続けている場所です。
医療の外に出て見えた、“自分の武器”とこれから
ーー最近、注力している活動はありますか?
今は仕事に熱中しています。
病院での経験だけでは見えなかった自分の可能性を試したいと思い、IT企業に転職しました。看護師としての経験も、別の形で活かせるのではないかと考えたからです。
最初は医療患者特化型SNSの立ち上げに関わりましたが、次第にマーケティングそのものに強い関心を持つようになりました。現在はエンジニアの転職サービスを展開するIT企業で、マーケティングを担当しています。医療とは異なる領域ですが、とてもやりがいを感じています。将来的に医療業界へ戻ることも視野に入れつつ、今は会社の事業成長につながるよう、数字と奮闘する日々です。
ーーナースとしての自分と、ひとりの自分に共通している価値観は何だと思いますか?
「人の人生に伴走すること」です。
看護師や保健師として働いていた頃は、病気や生活の変化など、人生の転機に立ち会う場面が多くありました。たとえば、一人暮らしを望む高齢者の方が、ご家族との折り合いに悩むなど、人が抱える葛藤に向き合うことも少なくありませんでした。
そうした中で、患者さんやご家族の生活や役割を一緒に考えながら、選択肢を提示し、その方が納得して選べるよう、意思決定に寄り添ってきました。
現在は事業会社のマーケターとして、エンジニアのキャリア支援に関わっています。キャリアもまた、人生における大きな意思決定の一つだと考えています。コンテンツを通じて「こんな選択をした人もいる」といった事例を伝えたり、多くの人が迷いやすいポイントを言語化したりすることで、より良い選択につながる情報を届けています。
人が好きで、人の話や人生の話を聞くことが好きという点は、昔から変わりません。職業が変わっても、「人の人生に伴走する」という軸は一貫していると感じています。
自分らしく歩む
ーー今後、挑戦してみたいことや、描いている未来について教えてください。
いずれは医療関係の業界に戻り、マーケティングで培ったスキルを掛け合わせたキャリアを歩めたらと思っています。
また、小杉湯のような、人が自然とつながれる場に、再び関われたら嬉しいですね。
ーー未来のナースや後輩たちに、伝えたいことはありますか?
今も看護師として現場で働いている方々を、本当に尊敬しています。
大学時代の友人たちが、いま医療現場を支えている姿を見るたびに、「続けていること」そのものの価値を強く感じます。
医療の外に出たからこそ、その大変さと同時に、看護の価値の大きさを改めて実感しました。
キャリアに迷っている方には、「可能性は一つではない」と伝えたいです。
私自身、未経験からマーケティングに挑戦しましたが、医療以外での経験は、いずれ看護に戻ったときに新しい強みになると感じています。看護で培った力は、病院の中だけにとどまるものではありません。
その可能性を信じて、自分なりの形で活かしていってほしいと思います。
プロフィール
ふじはる
看護師/保健師 → IT企業マーケティング
長野県出身。ファーストキャリアは病院の看護師。その後、「人と人のつながりを処方して健康/街づくり=社会的処方」をテーマに地域包括支援センターに勤務しながら、小杉湯コミュニティナースとして活動。ヘルステックスタートアップにて患者特化型SNSを立ち上げ、現在はIT企業にてマーケティングを行う。
・SNS:X(旧Twitter)
⚫︎取材・執筆:吉田めぐみ
⚫︎カメラマン:藤井拓実
Nurse Life Mix 編集部です。「ライフスタイル」「キャリア」「ファッション」「勉強」「豆知識」など、ナースの人生をとりまくさまざまなトピックスをミックスさせて、今と未来がもっと楽しくなる情報を発信します。























