インタビュー#10 鳥ボーイ「芸人と看護師の経験を活かして、個性を出して輝ける場所に」

公開:2023.07.13

看護師として働きながら、その知識や経験を生かして新しいビジネスを手がけたり、看護とはまったく別の世界でパラレルキャリアを歩んだり、忙しい看護の仕事をしながらでもプライベートを思いっきり楽しんだり…。ナースとしての新しい生き方をみつけようとしているナースたちの”働き方”や”仕事観”に迫るインタビュー企画。第10 回は芸人から看護師へ、看護師から企業へキャリアチェンジした鳥ボーイさんにインタビューしました!
鳥ボーイさんのプロフィール

高校卒業後に吉本養成所に入りお笑い芸人として活動。芸人を続けながら看護学校に入学、看護師の免許を取得し、総合病院の混合病棟、ICUで勤務。鳥ボーイの名前でTwitterやYouTube、執筆活動などを行っている。現在は医療デバイスを扱う企業でクリニカルコンサルタントとして西日本エリアの施設を担当。遠いところでは往復200㎞くらいかかる施設を訪問することも。

思っているような人生が歩めなさそうなら、もっと自分の強みを生かして

編集部 編集部
鳥ボーイさんは芸人さんから看護師となった経歴がとても印象的です。まず芸人になったきっかけについて教えてください。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
僕が高校生くらいの頃は、いわゆる就職氷河期と呼ばれていた時代だったんですよ。

バブル崩壊後で不景気になって「いい大学に行ったとしても、そんなに仕事がない」という就職難の話がニュースでずっと取り上げられていて。

高校生ながらに一般的な大学のレールに乗っても思っているような人生が歩めなさそうだと思ったときに、それならもっと自分の強みを生かしてと考えました。

それこそ、僕は死ぬまでに世に名を残すみたいなところを当時、目標に置いていたこともあって、それなら最短ルートで一番それが叶いそうな芸人の道に進んだということです。

今思えば、だいぶなめていたと思いますけどね。
高校生時代の学際でコントをしている鳥ボーイさん(写真左)
編集部 編集部
それから芸人さんを続けられていて、看護師になろうと思ったのはなぜですか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
芸人を続けるなかで、やっぱり親からは「資格だけでも取っておいたら」と言われていたんです。

僕自身、親を安心させる意味でも、自分のやりたいことをやるためにも、ここは多少安心させておく必要はあるかなと思ったのがきっかけで、看護師の仕事に目を向けました。
ベタな話ですけど、母親が看護師なんです。

これは余談ですけど、実は小学校の卒業アルバムでは将来の夢のところに「お医者さん」と「お笑い芸人」と両方書いていました。

小学校のときに大きな怪我をして、対応してくれた医師をみてかっこいいなと。
だから、元々かなり勉強もしていたんですよね。

そうしたベースがあったので、22歳で芸人をしながらでも3~4歳下の子たちと一緒になんとか看護学校はパスすることができました。
編集部 編集部
芸人をしながら看護学校に通っていた時期もあったんですね。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
そうです。
ただ、芸人の仕事のほうもショーレースの予選に声をかけてもらえるようになりつつ、看護学校も実習などで忙しくなりつつあったときはけっこうしんどい時期ではありましたね。

どちらか絞らなければと僕のなかで考えてはいたんですけど…。ちょうどそのタイミングで相方から「気持ち的にしんどくなってきた」と言われコンビを解散することになったんです。

それで、また誰かと一からコンビを組み直すことは考えられなくて。結局そのまま看護師となって附属の病院に就職しました。

個性を出せない環境でたまっていくフラストレーション

編集部 編集部
看護師としては病院に入職されてから、どのような経験をされていったのでしょうか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
附属の病院は14年くらい勤めました。

最初は呼吸器外科と脳神経外科の混合病棟で3年半ほど、その後はICUに異動となり、退職するまで働いていました。

いわゆる中堅からベテランにさしかかるなかで一通りのことをやってきましたけど、当時はキャリア迷子なところがあったと思います。

ちょうど看護師5~6年目の30歳前後の頃で。当時、看護師って仕事に対するモチベーションにバラつきがあるなと思いながら仕事していたんです。

僕は芸人として寄り道したにもかかわらず、モチベーション高く仕事していたから、もっと評価されてもいいんじゃないかと感じていました。

それで、看護師の仕事って一体何で評価されるのかと常に意識するようになり、この辺りから今の仕事に繋がっているかもしれませんね。
編集部 編集部
そのようなことを考えられていたんですね。それで、何か行動に移したんでしょうか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
まずは自分の部署でやっていることを学会で発表する、そうした行動に移すようになりました。

ただ、当時はあまり研究や学会発表などやりたい人が周りにいなくて、看護部からどう評価していいかわからないと言われてしまったことがありました。

これはもしかして僕が思っているようには、この病院ではいかないんじゃないかと考えがよぎるようになって…。

今いる組織だけでスキルを磨くにも限界があると、外に目を向けようと思い、「鳥ボーイ」というアカウントでTwitterをはじめたんです。

それが34~35歳くらいの頃ですね。当時から看護師で発信している人たちとコミュニケーションをとりながら、情報収集がてらいろんなことを教えてもらっていったほうが早いなと、そういう位置づけでやっていました。
学会で研究内容「管患者における夜間看護ケアとせん妄の関連性」を発表
編集部 編集部
そこでTwitterをはじめられたんですね。

それから企業に転職するために、看護師の仕事に踏ん切りをつけたのにはどういう経緯があったんでしょうか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
特別、看護師の仕事が嫌になったわけではないんですけど、自分のなかでもいろいろフラストレーションがたまっていって。

そんなときに、副看護部長さんから言われたんです。「芸人を一度でも目指した人間が、あの個性が生かせない場所ではたぶん輝けないと思う」と。

それが行き詰まりを感じていたなかで、言語化してもらってすごく納得したところで。
実はこの副部長さんは、僕が入職した最初のところの師長さんだったんです。

それで、自分のこれまでのキャリアをミックスさせながら、どういう道があるかと考えたときに、医療機器メーカーの営業のような、数字を追う仕事は性に合っているかもしれないと思うようになりました。
編集部 編集部
たくさんの企業があるなかで、現在の医療デバイスを扱う企業に絞ったのはどういう理由からですか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
これはTwitterで繋がった人からも企業の働き方でアドバイスをもらいつつ。
紹介してもらった転職のエージェントさんからおすすめされて受けた1社で、結局そこしか受けずにそのまま受かって入社したんです。

僕ができることは「人前でしゃべることと、循環器に強いだけです」と伝えていたので(笑)。

それで、循環器や心臓血管外科で使う医療デバイスを扱っている企業に来ました。

これまでフィールドが変わってきたなかで感じるギャップや葛藤

編集部 編集部
鳥ボーイさんは芸人から看護師に、そして看護師として病院から企業にと大きくフィールドが変わってきていますが、そのなかで感じたギャップや葛藤などはありますか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
これまで男性が多い社会から女性が多い社会に移ったことで、スタッフとの距離感や立ち回り方は大きく変わりましたね。

誰の味方にもつかないというのが、男性看護師として生きていくのに大事だなと痛感して(笑)。

だからといって自分をすごく抑えていたわけではなくて、これは僕のキャラもあると思いますけど、そのなかでもズバッと自分の考えや意見を言うときは言っていたので、それでリーダーやファシリテーション的なポジションにしてもらうことは多かったです。その場を温める役割というか。
編集部 編集部
その場を温めるって、なんか芸人さんでいう前座みたいな役割と似ていそうですね。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
そうですね。
それで、企業に転職してから感じたギャップはやっぱり患者さんとの距離感が大きく変わったことですね。

これまではベッドサイドで一番患者さんに近いところにいたけど、今は病院のスタッフではなく部外者になるので、医師や看護師を通して患者さんへアプローチするようになりました。

これは慣れるまでに時間がかかりましたし、2年ほど働いている今でも担当施設や関わるスタッフによっても距離感は違ってくるので、探りつつやっています。
編集部 編集部
なるほど、それは大きな違いですね。
他には看護師の頃の勉強と現在の勉強はどのような点が変わりましたか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
今は教授レベルの医師と対等に話ができなければならないので、毎日長い移動や待ち時間の間で動画や音声コンテンツなどで勉強していますね。

医師と話す上では、よりエビデンスやガイドラインが重要だなと実感しています。

看護師のときも触れてこなかったわけじゃないですけど、「昔からこうやってるから」というのが染みついている部分もあるじゃないですか。

だけど、医師は情報のアップデートも早くて、僕らはそこについていかないといけないと話にならないし、数字が出せないとお給料もらえないですから。

海外の英論文含めて触れるようになりましたね。僕は看護師の経験が14年ほどありますけど、それでもようやく太刀打ちできるようになってきたなと思っているくらいです。
鳥ボーイさんが日々の勉強に使っている書籍。医療から英文読解、営業術と幅広い内容

僕だからこの仕事ができる、個性が出しやすい環境

編集部 編集部
今の仕事で楽しい、面白いなと感じる部分ってどんなことがあるんでしょうか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
今の仕事は自分の個性が出しやすいと思いますね。
それは上司がうまくモチベーションをあげてくれるような声かけをしてくれるからでもあります。

たとえば、「部長クラスの医師にも臆さず話しに行くし、あの施設は合っていると思う、それでお前に持たせている」と言ってくれて、ちゃんと自分のことを見てもらえているんだなと、そういうやりがいは感じます。

僕だからこの仕事ができる、僕だったら何ができるかと意識が向くようになりました。
編集部 編集部
なるほど。鳥ボーイさんが今の仕事で大切にしていることはありますか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
看護師のときと結局一緒やなと思うことはありますね。

営業でも結局病院の医療従事者のニーズを満たさないと意味がないので、相手のニーズに応えるという点では一緒です。

しかも、コミュニケーションに関していえば、正直小手先でできることはなくて、相手が出してくるニーズのキーワードをもれなく拾えるかどうかが勝負だと思います。

特に今はコミュニケーション取れる時間も少ないので。その言葉の奥にある本当のニーズはなんだろうと探りに行かないといけない。

それは1回のコミュニケーションでは探りに行くための関係性は作れないので、腹割って話してもらうためには次にどうコミュニケーションを積み重ねようかと時間をかけないとあかんなとはよく思いますね。
編集部 編集部
そういうコミュニケーションや立ち回りって、芸人さん時代から沁みついているものなんですか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
そうですね。
芸人も舞台で一番目立てばいいかと言ったらそうじゃなくて、みんなで作っているひとつのイベントやステージなわけだから、みんなでどう良くするかということが大事なんですよね。

これは吉本興業のカラーでもあるんですけど、「チームプレー」を大事にする文化があるので。もし別のところに所属していたらまた違ったかもしれないです(笑)。
編集部 編集部
それは運命的ですね(笑)。
ちなみに鳥ボーイさんって、コンビのときはボケとツッコミどっちだったんですか。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
僕はツッコミでしたね。
ツッコミは誰も損しないように立ち回るのが一番大事なので。
編集部 編集部
今にも活きてくる大事な役割ですね…!
それでは最後、読者に向けてメッセージをお願いします。
鳥ボーイ 鳥ボーイ
看護業界は世界が狭い、一般社会とは違うみたいなこと言われていますけど、その一方、看護業界で学んだことは違うフィールドに行っても活かせるものが多いと思っています。

キャリアに迷っている人でも今、目の前のことを一生懸命やっていれば、後にちゃんと繋がるんじゃないかなと。

僕自身も何をやっていいかわからんまま論文を読んだり、学会発表したりしていた時期がありましたけど、それが結局今に活きてきています。

がむしゃらになる時間があったほうが、後から何にでも活かせる。看護師時代のスキルってどの仕事でもちゃんと繋がると思いますよ。
編集部 編集部
芸人さんと看護師の仕事って、たくさんの共通点があって驚きました。楽しいインタビュー、ありがとうございました!

聞き手・ライター:白石弓夏


看護師兼ライター。小児科や整形外科病棟で10年以上勤務。転職の合間に派遣でクリニックやツアーナース、健診、保育園などさまざまな場所での看護経験もあり。現在は非常勤として整形外科病棟で働きながらライターとして活動して5年以上経つ。
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