インタビュー#13 あき「いつどこにいってもいいスタンスで布石を打っておく、わたしのキャリア」

公開:2023.07.31

看護師として働きながら、その知識や経験を生かして新しいビジネスを手がけたり、看護とはまったく別の世界でパラレルキャリアを歩んだり、忙しい看護の仕事をしながらでもプライベートを思いっきり楽しんだり…。ナースとしての新しい生き方をみつけようとしているナースたちの”働き方”や”仕事観”に迫るインタビュー企画。第13 回は急性・重症患者看護専門看護師である、あきさんにインタビューしました!
あきさんのプロフィール

2011年に看護大学を卒業後、都内の総合病院に入職。ICUで5年働いた後、一度退職し、非常勤としてICUで夜勤、ティーチングアシスタント(実習指導)をしながら大学院進学。大学院修了後、元の総合病院に再就職し、救命救急センター勤務となり専門看護師の資格を取得。その後主任となり、現在は育休中。
編著:「できるナースと言われるために5年目までに知っておきたい108のこと」学研メディカル秀潤社

twitter:@aki_nurse327

自分の看護を言語化するために、大学院へ進学し専門看護師へ

編集部 編集部
あきさんは看護師としてICUで5年働いた後に、専門看護師の資格を取られたとのことですが、そのきっかけについて教えてください。
あき あき
当時は専門看護師になるために大学院進学したわけではありませんでした。

ICUで働くなかで一生懸命治療にあたっていても、残念ながら亡くなられてしまう患者さんとご家族に対峙したときに、ご家族の悲嘆がすごく大きく感じたんです。

私はICUでなにができたんだろう、自分の看護ってなんだったんだろうと悩みを抱えるようになりました。

同時に看護について学びを深めたいという思いから大学院進学を考えました。
目標面談の際に師長に相談したところ、自分の看護を言語化する学習もいいよと背中を押してもらいました。

臨床での課題をどのようにして自分のなかに落とし込めるか、もう一度学び直しのために勉強しに行く感覚だったんです。

なので、実際に大学院に入ってから論文コースか専門看護師(CNS)コースか選ぶタイミングで、同じ学費でいろんな病院で実習ができる専門看護師コースのほうが魅力的に感じたことと、実習での素敵な専門看護師との出会いから、専門看護師になりました。
編集部 編集部
専門看護師となるための過程で、周りからの反応や協力体制はいかがでしたか。
あき あき
働いていた総合病院には大学院進学に関する休職要件が多数ある上に、複数部署の経験が必須でした。

私は自分の行きたいタイミングで行かないと、やる気やモチベーションが変わってしまうかもしれないと思ったので、学業に専念する形で「一度病院を退職して受験します」と上司に伝えて進学しました。

自分のキャリアについても見直したいという思いもあったと思います。

ただ、大学院にいる間も非常勤としてICUで働かせてもらっていたので、臨床は離れずにいられたことに感謝しています。
編集部 編集部
そして、元の病院に戻ったのは、どのような理由からだったんでしょうか。
中山 中山
就職活動のときに実は小規模病院も視野に入れて面接もしたのですが、「これから専門看護師を受けようという看護師を、組織としてどのように扱っていいかわからない」と言われたこともありました。

元々、自分のキャリアを見つめ直し、所属施設に縛られない形で進学したいという考えもありましたが、元の施設は気に入っていたので、再就職となりました。

自分がいなくてもまわるシステムをつくり、どこに行ってもいいように

編集部 編集部
現在の病院では、専門看護師としてどのように働かれていたんですか。
あき あき
現在は救命救急センターに所属しています。

私が再就職した当時、院内には専門看護師もいましたが、急性・重症患者看護分野は誰もいませんでした。

また、当時は組織改革が必要なタイミングでもあり、一緒に携わってほしいと管理者からは言われていました。

ただ、急性・重症患者看護分野での専門看護師は私が1人目だったので、スタッフも管理者もどう扱っていいかわからないというのは正直あったと思います。

だからこそ自分はなになにができるか、どうアピールするかというのは当初の課題でもありました。
編集部 編集部
その課題に対して、1年目、2年目となにか計画的に進めていったことなどはあるのでしょうか。
あき あき
新たに配属された1年目では、救命救急センターがどんなところかもよくわかっていなかったので、まずは環境に馴染むところからはじめました。

信頼に値する仕事をしなければ相談してもらえないので、まずはいちスタッフとして業務ができるように信用してもらうところで必死でした。

そこで部署の雰囲気や課題、強みなどを肌で感じながら、2年目になって教育担当者という立場になったこともあり、自分の感じた課題を共有しつつどういう風に変えていくかとスタッフを巻き込んでいくようになりました。

3年目で主任という役割も増えより管理的視点も求められました。

所属部署外では、研修で講義したり、コンサルテーションを受けたり、他の認定看護師さんと協働する場面も増え、少しずつ自分の役割を広げていきました。

4年目からは本格的にRRT(ラピッドレスポンスチーム)や病院として診療報酬に大きく関わる部門に関わらせてもらうようになり、専門看護師の実習生を受け入れるような教育にも携わるようになりました。

大変なこともありましたし、バタバタとあっという間に過ぎた5年間でしたね。

それでも、長期的な視点として自分がいなくても変わらないような風土を整えていくためには3~5年くらいで1クールとして捉えていました。

このような形であれば、どこの部署に行っても自分がやれる役割はあるかもしれないと思えるようになったので、私自身としてはどこに行ってもいいスタンスで仕事をしています。
産休に入ってから行った学会のパネリスト講演
編集部 編集部
専門看護師として、自分の活動を知ってもらうなかで大変だったことはなんですか。
あき あき
広報活動で作ったチラシ1枚では、相談や依頼は来ないんだなと痛感したことでしょうか。

泥水を飲むじゃないですけど、大変なことも一緒に共有して考えていくスタイルでないと、この人に相談しようとはならないだろうと思ったんです。

それは、コロナ禍で一時的に他部署に異動するタイミングがあって気づきました。

一緒に働いたスタッフからは「ちょっと気になる患者さんがいて」「あきさんに関わってほしい症例です」と今でも連絡をもらえるようになりましたから。

特に私は家族ケア、倫理調整、終末期ケア、意思決定支援などをサブスペシャリティにしていたので、突然の事故、急病による意識障害や脳死などの症例で家族の気持ちがついていかないとなったときに、声をかけていただくことが増えましたね。

Twitterで繋がる外の世界と広がる視野

編集部 編集部
あきさんはSNSの発信や書籍などで編著などもされていますが、それらはどのようなきっかけからだったんでしょうか。
あき あき
SNSは大学院に通っているときに、自分自身が考えたり、悩んだりすることは、誰かも同じように通る道なのかもしれないと思うようになり、発信していこうと考えました。

ただ、最初は医療従事者ではない方々に看護師の仕事を知ってもらえたらいいなと思ってはじめました。入院した患者さん含めてご家族が病院の看護師にどういうことを頼っていいかわからない現状が多いと感じていたからです。

ところがTwitterをはじめてみると、意外と看護師同士のコミュニティーツールとして使えることがわかり、自然とフォロワーさんも看護師が多くなっていったので、今の形に流れ着いたような状況です。

書籍はSNSがきっかけで出版社の方と出会い連絡をとるようになって、「いろんな熱い思いがあるなら、本を書きませんか」と言ってくださり、それで信頼のおける職場の仲間たちやSNSで知り合った同じ専門看護師の方々に声をかけて作りました。

コロナ禍だったこともありますが、Zoomで日本全国の専門看護師の方々とやりとりできたのはとても心強かったですね。

他にも病院組織や臨床現場の現状、看護大学院に進学するうえでの必要な支援についてヒアリングを受けることや、セミナーの講師の依頼などもあります。自分の勉強のためにと思って積極的に受けています。
ゴルフ仲間が書籍を買ってくれてゴルフ場に持ってきてくれました。 看護師以外の方にもリーダーシップについて活用いただいたこと、とっても嬉しかったです。
編集部 編集部
こうした活動のなかで、あきさん自身になにか変化はありましたか。
あき あき
臨床を大事にしていますけど、病院だけがその世界だと思うとしんどくなってしまうので、外の仕事も関わり続けていくことが必要だなと思います。

視野も広がりますし、病院だけに縛られなくてもいいんじゃないかなって、身をもって言えるようになりました。

また、領域外の世界に出てみると、看護師や専門看護師って、どういうことをしているか知られていないと肌で感じたこともありました。

それでも大学院を出ているというと「なにを研究されていたんですか」と話がスムーズに進むこともあるので、自分の役割や立場をあらためて考えさせられるきっかけになりました。

育児も大事だけど、自分の時間を使うという意味でも時間は有限

編集部 編集部
あきさんは現在、出産後の育休中ですが、今後専門看護師としてのキャリアをどのように考えていますか。
あき あき
これまでは産休に入る看護師を見送る側だったので、育休復帰してきたママさん看護師からは「先にキャリアを積んでいていいな」「先にキャリアを積んでから妊娠、出産したほうがいいよ」と言われることもありました。

だけど、自分がいざ34歳、看護師13年目で出産をして、その後のキャリアをどうしようかと考えると、それはそれで悩みがあるなと感じます。

資格を持っている専門看護師や認定看護師の先輩ママも「この後、更新はできないかも」と言っていて、その後の働き方に葛藤するのは、どちらでもあるんだろうなと思います。

私の場合は、今年がちょうど専門看護師の更新の年なんですね。

これまで外部のお仕事や研究もやってきたので、延期せずに更新できそうですが、その後復帰して時短勤務をしながら専門看護師の仕事となると、ある程度優先順位をつけて仕事をしないといけないだろうなと覚悟しています。

夫は基本的にすごくサポーティブなんですが、ちょうどコロナ禍がすぎ仕事が忙しくなったことも重なって、話し合った結果私がメインで子どもをみるというのが現状ですね。

それでも私が休みたいとき、自分のために使いたい時間については理解してくれているので、実は育休中に看護管理に関する研修を受けることにしました。

そうした時間やお金の面で、夫はサポートしてくれているのでありがたいです。

この育休中の1年間、育児の時間ももちろん大事ですけど、自分の時間を使うという意味でも時間は有限なので、ちょっとわがままですけど自分もやりたいことはやらせてもらおうと思いました。

いつどこでなにがあってもいいように布石を打っておきたいです。
育児写真。日々成長を見せてくれる我が子から学ぶことも多いです。
編集部 編集部
最後に読者に向けてメッセージをお願いいたします。
あき あき
今あるものだけに縛られずに、広い視野で考えていってほしいなと、そうした言葉を後輩に投げかけることがあります。

たとえば、辛くて辞めたいと感じる場面では、本当にしんどいときに行動を起こすと、エネルギーを使ってしまうだけなので、あえて動かないというのも選択肢だと伝えたこともありました。

そこで動かずにじっとしていてエネルギーが溜まってきたら少しずつ動く。
転職や環境を変えるってかなりストレスのかかることなので、本当は元気のないときに経験してほしくないなと思いますね。

転職はもちろん選択肢として大切にしてほしいですし、その後のキャリアという面でも良い経験となるように応援したいです。

考え方や自分の捉え方、認知を少し変えるだけで、随分と世界は広くなるし、ポジティブに捉えることができると、これは私が身をもって伝えられることだと思います。
編集部 編集部
あえて動かない、エネルギーを溜めることに集中するのも大事だと思いました。あきさん、ありがとうございました!

聞き手・ライター:白石弓夏


看護師兼ライター。小児科や整形外科病棟で10年以上勤務。転職の合間に派遣でクリニックやツアーナース、健診、保育園などさまざまな場所での看護経験もあり。現在は非常勤として整形外科病棟で働きながらライターとして活動して5年以上経つ。
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