インタビュー#14 Nバク「医療と芸術の相反するものの両輪で、自分の限界を作らずに軸に沿って進む」

公開:2023.08.10

看護師として働きながら、その知識や経験を生かして新しいビジネスを手がけたり、看護とはまったく別の世界でパラレルキャリアを歩んだり、忙しい看護の仕事をしながらでもプライベートを思いっきり楽しんだり…。ナースとしての新しい生き方をみつけようとしているナースたちの”働き方”や”仕事観”に迫るインタビュー企画。第14 回は医療系管理職YouTuberである、Nバクさんにインタビューしました!
Nバクさんのプロフィール

新卒で3次救急病院のオペ室に配属され5年勤務。その後に転職をして、かねてからの憧れだった救命救急センターやオペ室、心臓血管外科専門の病院などで働く。2020年から「Nバク」としてYouTubeで発信を開始。その数か月後に看護師を辞め、現在は執筆、セミナー講師やコンサルに関する仕事なども行う。別名義で音楽やイラストに関する活動も。
著書:「新人・若手ナースに捧ぐ 仕事も人間関係もうまくいく方法を語ってみた。」日本看護協会出版会など

自己中心的なところからでも最終的に利他に繋がっていれば

編集部 編集部
Nバクさんのご経歴についてお聞きしたいです。最初はオペ室から看護師のキャリアをスタートさせたんですね。
Nバク Nバク
そうですね。

元々は当時やっていたドラマ「救命病棟24時」の影響で、救急や集中治療がかっこいいなと思っていたので、青いスクラブを着て救急やICUで働くと心に決めていました。

希望もその2つで出していたのに、実際に配属となったのはオペ室という…(笑)。

当時はかなり絶望的な気持ちだったんですが、働くなかでオペ室はクリエイティブで芸術的な側面があると気づいて、段々と楽しくなり、最終的には5年間勤めました。

それから、やっぱり救急とかICUへの憧れや夢を捨てきれず、転職をして。

急性期まわりのことをいろいろとやりつつ、最終的には自分が一番好きな臓器は心臓だということに気づいて、心臓血管外科と循環器の病院で勤めていました。
編集部 編集部
お話を聞いていると、オペ室の芸術的な側面や好きな臓器の話とか、ちょっと面白い視点でお仕事を考えているのだなという印象を受けました。
Nバク Nバク
たしかに、好きな臓器や好きな器械の種類とか、好きな超音波凝固切開装置の音とか、そういうのはたくさんありますね…。

患者さんとの関わりに対して、自分の思いが左右されるとか、自分を保てなくなるとか、そういうことはあまりなかったかもしれません。

いってしまえば、自己中心的なのかもしれないですけど、それで頑張れば頑張るほど、最終的に利他に繋がっていればいいかなとは思っていますね。

自己中心的なところからでも突き詰めていった結果、仕事の質が上がったり、患者さんに利益があったりすればいいなと。

私は患者さんの「ありがとう」をやりがいにするより、そういう考え方が根っこにあるかもしれないです。

優しくやんわり当たり障りなく、を避ける発信スタイル

編集部 編集部
NバクさんがYouTubeなどで発信をしようと思ったきっかけ、またテーマを仕事術やキャリア、人間関係などにしぼった理由はなんですか。
Nバク Nバク
急性期病院で仕事をしてきたなかで、管理職としての経験もあり、知識や技術も大切だけど、それだけでは心が折れてしまう…。

モチベーションが保てない、もっと大切なものがあると気づいて、Nバクとして発信していこうと考えました。

正直知識や技術を発信している看護師さんはごまんといたので、私がやるべきことではないと感じていて、そもそも外していました。

とりあえず仕事での立ち振る舞いや処世術に全振りしました。
また、わりとずけずけ言いながら、発信していくということも自分の個性として出しているところはありますね。

誰も傷つかないように、優しくやんわりと当たり障りなくということを避けているので、Nバクの発信は当たったり障ったり、波風が立ちまくるという、そういうテーマでやっています。
編集部 編集部
視聴者が感じる痛みは、自分で気づいて向き合い、成長するためには必要なのかもしれませんね。

そもそも、こうした発信をはじめた際に看護師を辞めたのは、何か計画的に考えられていたんでしょうか。
Nバク Nバク
「食えなくなったら戻るけど、食えているうちは戻らない」ということだけを決めて、病院を辞めましたね。
そこまで綿密な戦略とかは立てていないです。

看護師の仕事は数か月から1年とブランクがあっても、そこまでこだわらなければ翌月から復帰して10万、20万稼ごうとある程度コントロールできる稀有な仕事だと思っていて、それがとても心理的な担保になっていますね。
編集部 編集部
なるほど。

ただ、看護師向けの発信だと、臨床を離れてしまうことで感覚が鈍るとか、そうした不安はなかったんでしょうか。
Nバク Nバク
最新の臨床的な知識や技術を発信する人だと、どんどん情報が古くなるし、現役看護師であることのほうが付加価値があるかもしれません。

ただ、私の場合は世間一般的にいわれているビジネス業界のノウハウや働くうえで必要な素養みたいなことを発信しているので、どちらかというと医療の外側にいるほうが新鮮な情報が毎日入ってくる感覚です。

もちろん、白衣が似合わなくなったらどうしようとか、個人的にはモニターの音や薬の匂いとかも大好きなんで、懐かしいなと思うことはあるんですけどね。

それでも、全国の看護師から24時間365日、悩み相談を受け付けていると圧倒的に視野が広がって、視点も増えて、私としては看護師を辞めた不安よりも、メリットのほうが大きかったと思います。

Nバクのアイコンとハンドルネームでどこまで進めるか

編集部 編集部
NバクさんのYouTubeでは、最初にテーマに関する言葉の定義や前提条件をそろえたり、大切なポイントは3つにしぼったりしていて、とてもわかりやすいと感じるのですが、なにか気を付けていることはあるのでしょうか。
Nバク Nバク
たしかにフォーマットや型をどうするかというのは、Nバクとして発信するときに最初に考えたことでした。

いろいろとYouTubeやInstagramを見ていると「○○で大切なこと11選」みたいな、とりあえず思いついたことを全部言ったみたいなことが多くて、正直「そんなの無理だし、受け止めきれへん」と思ってしまったんですよね。

かといって、プレゼンでは1つのテーマにつき1メッセージと言われていますけど、それだとコンテンツにはならないと思考錯誤した結果、3つに決めようと。

「3種盛り」とか「3テーマで」という言い方をしています。ただ、3つにまとめるのも、これはこれでけっこう大変なんですけどね。

あとは、自分が現役時代にドロドロになっていた時期の話も赤裸々に入れつつやっています。
自分が感じたことのない痛みや調べただけのことなどは発信しないようにしています。
Nバク Nバク
少し話は変わるかもしれませんが、実はこのアイコンとハンドルネームでどこまで進めるか。
これは「看護師のかげさん」とも以前話していたことなんですが、Nバクの名前のままで、コンテンツや話している内容だけを見てほしいと思っている部分もあって。

このスタイルでどこまでいけるか体現していこうと、頑張っているところではあります。
編集部 編集部
それは面白いですね。

Nバクさんが扱うビジネス系の書籍とかテーマは、内容が難しそうという印象があるのですが、発信する前段階としてそこはどのように自分のなかに腹落ちさせているのでしょうか。
Nバク Nバク
私は看護師3年目くらいのときにサックスをはじめたんですけど、そのバンド活動に力を入れてきたなかで、ふとしたときに「このバンドのそれぞれのパート分けって、オペ室の麻酔科医と臨床工学技士、執刀医、外回り・器械だしの役割分担に似てるな」と思うことがあって。

それぞれの役割がありながらも、みんなでひとつの曲演奏するあの感じ。そういうことを勝手に転用して考えるようになっていました。

医療現場で学んだことを音楽に使うとしたら、どう使えるだろうか、音楽でお客さんとのやりとりを患者さんとのやりとりに置き換えるとしたらどうなるだろう…と、そんなことを日々思考していました。

シマをまたぐじゃないですけど、業界と物事の転用というのは、Nバクになる前からずっとやってきたことで、身についていたのかもしれないですね。
編集部 編集部
気になったのは、セミナー講師やコンサルの仕事のようにビジネス的な仕事をしつつも、音楽やイラストを描いたりするようなクリエイティブな仕事もされていて、相反するところがあるなという印象を受けました。
私、相反する人が好きなんですよ。
強さのなかに可愛げがあるとか、優しい口調なのに、実は芯が1本ビシッと通っているとか。

明らかに相反する要素を共存させているような。
たとえば、医療業界の仕事って、絶対不可欠なエッセンシャルな仕事ですよね。

反対に、不要不急としてコロナ禍では音楽があげられたわけですけど。生きていくうえで絶対に必要なものと、そうではないものの両輪で、私は10年ぐらい活動し続けてきました。

こうした相反する要素を常に持っているのが私のアイデンティティでもあるんですよね。

だから、それぞれの仕事で表現を押し付けるようなことになっていないか、偏っていないかと常に意識しているし、自分のなかでやじろべえみたいにバランスを取っていると思います。

この要素を感じ取ってくださって嬉しいです。
なんなら、この相反する要素が離れていれば離れているほど、かけ合わせたときの相乗効果が大きくなると思っています。

来たものに対して面白そうか、意味があることだと思うかなど自分の軸で

編集部 編集部
これまで発信をされてきたなかで感じた、Nバクさん自身の変化はありますか。
Nバク Nバク
これまで「目標達成型」だったところから、「展開型」の考えに変わったことでしょうか。

1年間の目標を立てて、評価することって看護師として刷り込まれている部分ではあると思うんですけど、同じように最初はチャンネル登録が何か月でどれくらい達したいか、このタイミングでこういう仕事をしていたいなどと細かく達成したいリストを作っていた時期がありました。

だけど、実際発信をはじめてみると、目標を立てた通りにいかないこともあれば、目標をはるかに上回るスピードで成長したこともありました。

YouTubeはもっと早くに5万人達成すると思っていたし、本を出すのはもっと5年くらい経ってからだと思っていました。
Nバクさんの著書「仕事も人間関係もうまくいく方法を語ってみた。」日本看護協会出版会
Nバク Nバク
そう考えると、目標を立てることって自分に限界を作ることだったり、モチベーションをコントロールしにくくなることだったりするかもしれないと。

それで、目標を立てることを止めたんです。
来たものに対して面白そうか、意味があることだと思うか、自分の軸に沿っている仕事かどうかで判断して仕事をしていこうと。

あまり目標を細かく立てすぎないほうが、限界突破してより大きな力が発揮できるんじゃないか、目標達成できなくてもへこむことはないし…と、そう考えるといろんなことが当初より前向きに取り組めるようになりましたね。
編集部 編集部
Nバクさんは目標としてはっきり掲げているものはないかもしれませんが、思い描いている理想像、どのような世界を見据えているのでしょうか。
Nバク Nバク
自分のために自分が楽しくて面白がって仕事をしていたら、最終的には患者さんのためになっていたみたいな、そういう人たちがもっと増えるといいなと思います。

看護師でも面白がって楽しく遊ぶように働いているとか、病院のなかでも外でも、どんなところにでもそういう看護師が溢れてくれればいいなと。

自分の身を削ってひたすらに真面目に愚直にやっていくことだけではなく、みんなで手を取り合って、明るく楽しい未来を一緒に作っていきたいです。それが、私が目指している世界ですね。
編集部 編集部
素敵な世界ですね。それでは最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
組織で働いていると、先輩の言うことや上司の言うこと、看護部の言うこと、いろんなことに縛られて、こうしなさいと言われ、それを聞かないといけないことってたくさんあると思います。

だけど、その枠のなかでも、ちょっとだけ自由にしてみるとか、ちょっとだけ自分なりのアイデアを挟んでみるとか。
工夫や遊び心、自分なりのこだわりみたいなものを常に持って働いていると、楽しく仕事ができるのではないかと思います。

こうしなきゃいけないと自分が思っていることって、実はそこまでしなきゃいけないわけではなかったりすることもあるので、意外と自由だよということはこれからも伝えていきたいですね。

聞き手・ライター:白石弓夏


看護師兼ライター。小児科や整形外科病棟で10年以上勤務。転職の合間に派遣でクリニックやツアーナース、健診、保育園などさまざまな場所での看護経験もあり。現在は非常勤として整形外科病棟で働きながらライターとして活動して5年以上経つ。
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